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『シークレット・スーパースター』全ての隠された“スーパースター”たちへの讃歌

(c) AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

『シークレット・スーパースター』全ての隠された“スーパースター”たちへの讃歌

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『シークレット・スーパースター』鑑賞の基礎知識



 「かの女らの美を目立たせてはならない。それからベールをその胸の上に垂れなさい。」


 これはイスラム教のコーラン、第24章30節よりの引用である。アラーの神を信じる者は、清廉で、謙虚に、視線を低くしなさい。女性は美しさや装飾を隠しなさい。と、説いている。この章をザックリ大雑把かつ有り体に訳してしまうと、男は誘惑に弱いので、女性は美しさをなるべく隠して、大事に、キレイに、包装してとっておきなさい。というところだ。これがなぜか、非常に厳格かつ奇妙な形で適用され続けているのが、中東アジアを報じるニュースなどで見かける、目の部分だけ穴の開いた布を被った女性の姿である。


 『シークレット・スーパースター』は、主人公の少女インシアが校外学習から帰ってくる場面から始まる。駅で彼女を待つ母親はヒジャブ(イスラム女性が頭髪のみを覆うスカーフ)で頭を覆い、サングラスをかけている。イスラム教徒でもモダンな女性なのかと思うが、インシアの言葉で印象が180°変わる。



『シークレット・スーパースター』(c) AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017


 「そのアザはどうしたの?」目にできたアザをサングラスで隠していたのだ。母親は気にする様子を見せず「母さんがドジしちゃったのよ」とあくまで明るく振る舞う。インシアはすぐさま母親のウソを見抜く。父親に殴られたのだ。父親は家族に旧態依然とした家父長制を強いり、母親はそのしきたりを漫然と受け入れ、その様子をインシアは度々目撃しているのであろう。


 インドで結婚する場合、新婦側が新郎に多額の持参金やプレゼントを納めるしきたりがあり、このため女の子は多額の持参金が必要なやっかい者とされる場合がある。逆に男の子は将来的に持参金を貰う後継として大事に育てられる。


 母親を殴るような男尊女卑の父親が、娘の結婚のための持参金を喜んで払うワケも無く、インシアは父親から疎まれている存在だという情景まで見えてくる。映画が始まってすぐ、母と娘の、このわずかなやりとりだけで彼女たちの家族関係が立ち現れる、非常に映画的で見事な幕開けと言えるだろう。



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