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『ディリリとパリの時間旅行』巨匠ミッシェル・オスロが描く「ベル・エポック」の神髄

『ディリリとパリの時間旅行』巨匠ミッシェル・オスロが描く「ベル・エポック」の神髄

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自由をもたらすパリの“エスプリ”



 ここで、ミッシェル・オスロのように、フランスを代表する監督の一人であるサッシャ・ギトリの映画『あなたの目になりたい』(43)を紹介したい。これは第二次大戦の時代、フランスがドイツ占領下にある時期に撮られており、そのことが、劇中のテーマやストーリーに暗い影を落としている作品である。その冒頭のシーンでは、二人のフランス紳士が、美術館の展示品を観ながら会話しているところが映し出される。


「カミーユ・コロー、ルノワール、マネ……。君はこの芸術家たちの作品にどんな感想を持つかね?」


「うむ、我々は戦争では負けたが、芸術、そして精神性の面ではむしろ勝利したのだ!」


 その宣言からは、ナチスドイツに祖国が占領され蹂躙されてしまったという屈辱からくる悔しさがにじみ出ていると同時に、戦いの発明や技術ではなく、精神を豊かにする文明の点ではフランスが圧勝しているのだという、パリッ子の自負が感じられる。




 その背景には、自らも絵の勉強をしていたアドルフ・ヒトラーが、フランスの生んだ進歩的な芸術作品を、「退廃美術」として迫害し、国粋主義、民族主義的な価値観を持った不自由な美術作品を評価した背景があるのだろう。ここにおいて、進歩的な芸術は暴力に対抗する象徴となっているのである。


 ベル・エポックは、『ディリリとパリの時間旅行』が描いた年の14年後に、第一次大戦という、大量の死者を出す戦争によって終焉を迎えることになる。だが、平和だった時代に花開いたパリの文化は、その一部が保存され現代まで残っている。それはやはり、われわれの目に“平和の象徴”であり、ふたたび暴力に奪わせてはいけないものとして映るだろう。




 本作には、ディリリとオレル、そして画家・ロートレックの3人が、配達用の三輪自転車に乗って、パリで最も高いモンマルトルの丘から、スリルを味わうために階段をガタガタと降りていく場面がある。それは、なんと自由で楽しい情景だろうか。われわれすべての人間には、暴力や理不尽な束縛から逃れ、人生を楽しむ権利があるのである。それこそがベル・エポックの美点の神髄であり、パリの“エスプリ(魂)”なのだ。




文: 小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

Twitter: @kmovie



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『ディリリとパリの時間旅行』

2019年8月24日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

配給:チャイルド・フィルム

(c) 2018 NORD-OUEST FILMS – STUDIO O – ARTE FRANCE CINEMA – MARS FILMS – WILD BUNCH – MAC GUFF LIGNE – ARTEMIS PRODUCTIONS – SENATOR FILM PRODUKTION


※2019年8月記事掲載時の情報です。

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