(c)1985 Orion Pictures Corporation. All Rights Reserved. (c)2019 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
『レモ/第1の挑戦』第2の“007”になれなかった隠れた傑作
本家“007”を支えたスタッフを招聘
オライオン・ピクチャーズからの提案で、監督にガイ・ハミルトン、脚本にクリストファー・ウッドが迎えられる。ハミルトンは『007/ゴールドフィンガー』(64)『007/ダイヤモンドは永遠に』(71)、『007/死ぬのは奴らだ』(73)、『007/黄金銃を持つ男』(74)を、ウッドは『007/私を愛したスパイ』(77)、『007/ムーンレイカー』(79)を手掛けており、新たな“007”を創り上げるのには申し分なしの布陣。
そしてレモ役は『ライトスタッフ』(83)の好演で注目されたフレッド・ウォードがオーディションで選ばれ、韓国人の老師匠チュンにはブロードウェイ俳優のジョエル・グレイが特殊メイクを施して演じることに。ちなみにレモ役には、ブルース・ウィリスやエド・ハリスも候補に挙がっていたという。
『レモ/第1の挑戦』(c)1985 Orion Pictures Corporation. All Rights Reserved. (c)2019 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
一切の武器を使わずにシナンジュという武術と素手だけで戦うレモの戦闘スタイルは、シルヴェスター・スタローンの『ランボー』(82)、『ランボー/怒りの脱出』(85)、アーノルド・シュワルツェネッガーの『コマンドー』(85)、チャック・ノリスの『テキサスSWAT』(83)、『地獄のヒーロー』(84)といった肉体派俳優が機関銃をバリバリ撃ちまくるアクションが席巻していた当時にしては新鮮なものに映った。
さらに、西洋人であるジョエル・グレイをアジア人チュンに変貌させてしまった特殊メイクは、『スキャナーズ』(81)や『狼男アメリカン』(81)、『遊星からの物体X』(82)に代表されるような、ド派手で凄惨なものこそが特殊メイクだという考えしかなかった13歳の自分には、衝撃の一言だった。
そして本作最大の見せ場といえるのが、改修工事中で足場に囲まれた自由の女神像で繰り広げられるレモの立ち回り。足場から足場へ、足場から女神像へ、女神像からぶら下がるロープへと跳躍し、パイプにしがみついた状態で足場から飛び出してしまうなど、パルクールを先取りしたかのようなアクションには度肝を抜かされた。
『レモ/第1の挑戦』(c)1985 Orion Pictures Corporation. All Rights Reserved. (c)2019 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
これはアルフレッド・ヒッチコックの『北北西に進路を取れ』(59)のラシュモア山でのクライマックスを超える見せ場を撮りたいという、ハミルトンのアイデアから生まれたアクション・シークエンスで、アメリカ版“007”に相応しい名場面と言っていい。奇しくも同じ年に公開され、ロジャー・ムーアにとって最後の“007”となった『007/美しき獲物たち』(85)のクライマックスは、やはりアメリカの名所にて高所であるゴールデンゲートブリッジの欄干だった。