アメリカのみならず、日本、そして世界にも。
ざっと挙げた3つのケースはほんの一例にすぎない。これにとどまらずジョーダン・ピールが開いたパンドラの匣はきっと、観客の頭の中で蜂の巣をつついたように無数の「アメリカの問題」を噴出させることだろう。
彼は決して高みに立って何かを訴えたり、糾弾することはない。そういう説教じみた匂いを一切感じさせることなく、また直接的に指し示すこともなく、我々にこの国に関する特別な視座をそっと提示し、知らず知らずのうちに多くの気づきと発見を持ち帰らせてくれる。それにハッとさせられるのはむしろ映画が終わってしばらく経ってから。多くの観客は帰り道、友人や恋人や家族とともに「あの問題も、この問題も共通しているよね」と半ば興奮気味に話が止まらなくなるはずだ。
『アス』(c)Universal Pictures
自分と他者の立場が大きく乖離し、両者の溝を埋める想像力が焦げ付いてしまった時、何かが起こる。あらゆる局面において、相手を「もし自分だったなら」と想うことができなくなった時、彼らはやってくる。これは何も対岸の火事などではなく、今や日本を含む世界中で共通の土壌が出来上がっていることを、我々はそろそろ肝に銘じておくべきなのかもしれない。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『アス』
2019/9/6(金)TOHOシネマズ 日比谷他、全国ロードショー!
配給:東宝東和
(c)Universal Pictures
※2019年9月記事掲載時の情報です。