2019.09.19
エドワード・ヤン監督作品が持つ魅力の秘密
本作のヤンヤンの撮った写真は、エドワード・ヤン監督の映像が、多くの映画ファンから「みずみずしい」と讃えられるようなものになっている理由を解き明かすものとなっている。
近年、旅行をするときに子どもにカメラを持たせてみると、面白い写真が撮れるということが話題になったことがある。大人が撮る観光写真は、どれも似たり寄ったりで、お決まりのものにしかならないのに対して、子どもは意外なものに心惹かれ、世間の価値観とは関係なく被写体を選ぶため、斬新な写真になるというのだ。そんな写真は、観光地の集合写真や、数え切れないほど同じ構図で撮られる風景よりも、その当時を鮮明に思い起こすような“きらめき”に満ちている。
『ヤンヤン 夏の想い出』(c)Photofest / Getty Images
“みずみずしさ”や、アーティスティックな映像というのは、つまりそういうことではないだろうか。大人の考える、損得に縛られた価値観ではなく、もう一方に存在する自由な感性。社会の歴史や現代の問題をテーマにしながらも、それを純粋な目で見るということを大事にする態度が、エドワード・ヤンの映画に圧倒的な魅力を与えていたのである。
本作ではとりわけ、稲妻の光とともに到来する、ヤンヤンの初恋を表現したシーンが鮮烈である。そんなエドワード・ヤン監督の感性がたっぷりとつまったシーンの数々を、本作でたっぷりと体験してほしい。
文: 小野寺系
映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。
(c)Photofest / Getty Images