2019.11.14
ラストシーンから見えてくる二つの映画の違い
ちなみに、『大人は判ってくれない』ではそのラスト、アントワーヌが更生施設から抜け出して、広く孤独な海へとたどり着く。ここでも彼は感情を爆発させるでもなく、ワイドショットの中、淡々とした表情でこちら側を見つめ、そこで画面が静止する。トリュフォーはこの部分に観客への「あなたならどうする?」という問いかけの意味を込めたのだと伝えられている。
実は『アバウト・ア・ボーイ』のラストでもこれと似た演出が施されている。マーカス少年が画面のこちら側を見つめた状態のまま、画面は静止。監督たちはこの演出を『大人は判ってくれない』へのオマージュであると告白している。ただしその余韻は“広く孤独な海”とは正反対で、『アバウト・ア・ボーイ』のラストは暖かな陽だまりのような希望に包まれている。
『アバウト・ア・ボーイ』(c)Photofest / Getty Images
一つ間違えばアントワーヌ少年のように孤独の存在になりえたかもしれないマーカス少年が、ウィル(ヒュー・グラント)を始めとする信頼できる仲間たちと出会うことで絆を深めていくこの物語。ラストで掲げられるマーカスの台詞が極めて印象的だ。
「人間は孤独な島などではない。つながりあっている」
もしかするとこれは、『大人は判ってくれない』で1959年の海に佇むアントワーヌ少年への、同世代から同世代への、時空を超えた“返歌”だったのかもしれない。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
(c)Photofest / Getty Images