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『バロン』大失敗作なんかじゃない! 苦難を越えて辿り着いたテリー・ギリアム監督作の芸術性とは?

(c)1989 Columbia Pictures Industries, Inc.ALL

『バロン』大失敗作なんかじゃない! 苦難を越えて辿り着いたテリー・ギリアム監督作の芸術性とは?

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ノー・クレジットで参加した大物俳優とは?



 なお本作には、当時17歳だったユマ・サーマンがヴィーナス役で登場したり、ギリアムと付き合いのあったスティングが「処刑される兵士」役で一瞬だけ顔を出したりもする。さらにほら吹き男爵と旅する少女役で、今や女優のみならず映画監督としても評価の高いサラ・ポーリーが出演しているのも見どころだ。ギリアムは当時9歳だった彼女の、整った顔立ちなのに口を開けるとガタガタに歯が抜けているという容姿のギャップに大きく心奪われたという。


 それから、月の場面に登場するのは、押しも押されぬビッグ・スターだったロビン・ウィリアムズだ。僅かなシーンにかかわらず、持ち前の即興演技で観る者を大いに楽しませてくれる彼。しかし、いざエンドクレジットに目をやると、そこに彼の名はなく、「月の王」役として「RAY D. TUTTO(イタリア語で“万物の王”)」という謎の名前が映し出されるのみだ。



『バロン』(c)1989 Columbia Pictures Industries, Inc.ALL


 これはウィリアムズ陣営から「あくまでノークレジットのカメオ出演にとどめたい」との要望があったから。彼の名前があたかも主演映画のように好き勝手使われてしまうのを防ぎたいという思惑が働いたためだ。あれほど気のいいウィリアムズをここまで警戒させるのだから、この映画のプロデューサーは本当に問題のある人だったに違いない。


 ウィリアムズとギリアムはこの後、『フィッシャー・キング』(91)の監督、主演コンビとして大きな果実を実らせることになるわけだが、唐突にこの世を去った20世紀を代表するコメディ俳優と、今なお風車に突進し続ける奇才監督が初コラボを果たした作品としても、『バロン』は大切に語り継ぐべき歴史の一部と言えるだろう。


参考文献

映画作家が自身を語る/テリー・ギリアム」イアン・クリスティ編、廣木明子訳、1999年、フィルムアート社



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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『バロン』

ブルーレイ発売中 ¥2,381+税

ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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