『CLIMAX クライマックス』はホラーとダンス、カタストロフの融合
Q:劇中、ダンサーたちのインタビュー・シーンの背景には、多くのホラー映画のVHSが積まれています。監督の作品にはホラー・テイストも含まれていますが、やはりお好きなのでしょうか?
ノエ:大好きだ。『サスペリア』(77)や『ゾンビ』(78)『ポゼッション』(81)など、あの場面に映っているほとんどは私の好きなホラー映画だ。ホラーはもちろん、破滅的な映画も好きだし、喜劇も好きだ。あの場面に配置したVHSは90年代に自分が繰り返し見ていた作品なんだ。『CLIMAX クライマックス』は確かにホラーを意識したが、それだけではなく、ホラーと、ダンス、カタストロフの混合というべき作品だと考えている。
Q:『サスペリア』は昨年リメイクされましたが、奇しくもこちらもダンス・シーンが大きくフィーチャーされていました。
ノエ:見ていないんだ。どうだった?
Q:オリジナルとは別物ですが、面白かったです。これも本作と同じくホラーの狂気とダンスの組み合わせという点で興味深かったのですが、ダンスと恐ろしいほどの狂気の親和性という点を、どうお考えですか?
ノエ:今回は本物のダンサーと仕事ができて、とても運がよかった。ダンサーは、とにかく肉体で表現することが大事だ。彼らは言葉ではなく、肉体を使って狂気を表現してくれた。それは私にとって、よりダイレクトに伝わってくるものだし、日本の観客にも字幕以上のものを伝えると思う。彼らの身体表現能力は本当に凄まじい。だからこそ、ダンスと狂気は一緒に、ムリなく表現できるものだと思う。
Q:ということは、やはりダンスを抜きにして本作は語れませんね?
ノエ:そのとおり。最初に述べたとおり、今まで私の作品を好きではないと言っていた人でも、今回はいいと言ってくれる人が意外なほど多いんだ。とくに最初のダンスのシーンはすごく良かったと言われる。でも、あの場面について言えば、私の監督としての責任はほんのわずかで、ほとんどはダンサーたちの貢献によって生まれたものだ。私は10パーセントほどしか貢献していない。あとの90パーセントはスタッフとキャストの熱意によって生まれたものだ。そういう意味では、『CLIMAX クライマックス』は私の映画というより、やはりチームで作った映画というべきだね。
最初に述べたように、ノエ監督は人間の狂気に迫る作品を撮り続けているが、『CLIMAX クライマックス』は、ダンスを通してそれを見つめた作品とも言える。これまでの作品と大きく違うのは、それがダンサーたちの肉体によって表現されていることだ。そしてそこには、やはりセックスもバイオレンスも含まれている。ダンスのスペクタクルを経た後の衝撃は、いったいどれほどのものなのか? ぜひ劇場で体感してみて欲しい。
『CLIMAX クライマックス』を今すぐ予約する↓
監督・脚本:ギャスパー・ノエ
1963年12月27日、アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれ。
父は画家のルイス・フェリペ・ノエ。子供時代の数年間をニューヨークで過ごし、1976年フランスに移住。パリのエコール・ルイ・リュミエールで映画を学んだ後、スイスのサースフェーにあるヨーロッパ大学の映画科の客員教授となる。短編映画「Tintarella di luna」(85/未)、「Pulpe amère」(87/未)を経て、94年に馬肉を売る男とその娘の愛を独特の雰囲気で描いた中編映画『カルネ』で、カンヌ国際映画祭の批評家週間賞を受賞。続編で初の長編映画となる『カノン』(98)はアイエス.bの資金援助を得て完成、カンヌ映画祭でセンセーションを巻き起こす。その後、モニカ・ベルッチがレイプシーンを体当たりで演じた『アレックス』(02)もカンヌで正式上映され、更なる衝撃をもたらす。その後も、彼の愛する街TOKYOを舞台にしたバーチャル・トリップ・ムービー『エンター・ザ・ボイド』(10)、若者の性と情熱を観客の心に完全に再現することを試みた意欲作『LOVE 3D』(15)など世界の映画ファンを驚愕させ続けている。
取材・文: 相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
『CLIMAX クライマックス』
11月1日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
(C)2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS
公式HP:climax-movie.jp