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初主演映画『ピーウィーの大冒険』
ピーウィー・ハーマンというキャラクターが好きだ。ベルギー漫画のタンタンのような短い髪に赤みを帯びた頬と唇、灰色のスーツに赤いボウタイ、白いローファー、そして変な笑い方。コメディアンのポール・ルーベンスが扮するこのおもちゃのようなキャラクターは、主に子ども番組の愉快なホストだが、映画の主役を務めることもある。初主演映画『ピーウィーの大冒険』はティム・バートン監督の長編デビュー作でもあり、ポール・ルーベンスは、まだディズニーのアニメーターだったバートンが撮った短編『フランケンウィニー』を観て、彼を監督に抜擢したのだった。ピーウィーの子どもっぽくやや狂気じみてもいる世界観と、バートンのヴィジュアルセンスは相性ばっちり。『ピーウィーの大冒険』は低予算ながらヒットし、今もカルト映画としての地位を築いている。バートンのキャリアとしても、この成功は『ビートルジュース』に繋がり、それがさらには『バットマン』へと繋がっていく。それらをはじめ多くのバートン映画で音楽を担当することになる盟友ダニー・エルフマンとの出会いも本作からだった。
様々な仕掛けの詰まったおもちゃ箱のような家で暮らすピーウィーは町の人気者だが、ある日いちばんの宝物である愛用の赤い自転車を盗まれたことで人柄が一変。自転車に乗っている人々全員に憎しみを抱き、町の皆にも疑心暗鬼になってしまう。警察も当てにできないので自力で自転車探しを始めたピーウィーは、インチキ占い師のアラモへ向かえというでたらめの助言を真に受け、テキサスを目指して旅をに出る……。
ヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』に着想を得ながらも、あくまでピーウィー式のロードムービー。逃亡者の車や幽霊の運転手が転がすトラックに拾われたり、ダイナーのウェイトレスと出会いその彼氏につけ狙われたり、探してる自転車が小道具として使われているワーナーの撮影所に押し入ったりという冒険、というか騒動を繰り広げていく。ピーウィーの自宅の仕掛けやところどころに挿入されるストップモーションによる特殊効果、小道具の雰囲気などに早くもバートン印を見ることができるが、特に終盤の火事になったペットショップから動物を助け出すというくだりが、犬をはじめ動物好きのバートンらしいところだと思う。ここでピーウィーは蛇嫌いであることがわかるが、気絶しつつも両手に蛇の束を握って救い出すというのが可笑しくも優しい。
ちなみにポール・ルーベンスは、『バットマン リターンズ』では、前述のウェイトレス役ダイアン・サリンジャーとともに怪人ペンギンの両親を演じている。異形で凶暴な赤ん坊を下水道に捨ててしまう夫妻の姿は印象的だが、バットマン登場以前のゴッサム・シティでの悪党たちの抗争を描いたドラマ「ゴッサム」でも、ロビン・ロード・テイラーが演じるペンギンの父親役を務めている。