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映画を通して手をつなげる社会にしたい。HIKARI監督『37セカンズ』【Director’s Interview Vol.52】

映画を通して手をつなげる社会にしたい。HIKARI監督『37セカンズ』【Director’s Interview Vol.52】

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日本人監督から、また新たな才能が現れた。しかしこの表現には少し違和感もある。もはや監督に「日本人」など国籍で形容する意味があるのだろうか? そんなことも考えさせるのが、『37セカンズ』のHIKARI監督だ。大阪で生まれ、現在はロサンゼルスを拠点に活躍する彼女のこの初長編作は、2019年2月のベルリン国際映画祭を皮切りに、各国の映画祭で絶賛を浴び、満を持して日本での劇場公開となる。


障害を抱え、車椅子生活を送る23歳のユマ。漫画家のゴーストライターを務める彼女が、自らの作品のために初めて男性との「関係」を持とうとすることをきっかけに、物語は思わぬ感動の展開へと導かれていく。実際に障害を抱える、演技初挑戦の佳山明をキャスティングし、障害者と性の問題にも軽やかに切り込んでいくHIKARI監督の演出には、初長編とは思えない「熟練」も感じさせる。今作のアイデアや、『37セカンズ』の反響、そしてハリウッドでの今後の予定などをHIKARI監督に聞いた。そこには、映画が人生を変えるという、彼女のポジティブな思いが詰まっていた。


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きっかけはアダルト漫画のドキュメンタリー



Q:漫画家のゴーストライターである、障害をもった主人公が性と向き合う物語は斬新ですが、どのようにアイデアがひらめいたのか聞かせてください。


HIKARI:作品の題材を探してアンテナを張っていたとき、「アダルト漫画の作家は、じつは女性が多い」という5分くらいのドキュメンタリーを観たんです。そこから取材を始めて、ヤングマガジンなどで成功しながら、アダルト漫画も描く、私と同じ大阪出身の葉月京さんにインタビューしました。アダルト漫画の作者には処女と童貞が多いなどと聞き、そんな取材を重ねるうち出会ったのが、熊篠慶彦さんでした。




Q:『37セカンズ』にも出演している熊篠さんですね。


HIKARI:熊篠さんから障害者と性というテーマについていろいろ教えてもらいました。シビアな問題から「デリヘリの障害者割引はない」という事実まで(笑)。それから1年くらいして、彼からアメリカでのセックスセラピストのインタビューを頼まれました。そこで知ったのが、「女性は下半身不随でも“イク”ことができる。男性よりも脳が性の喜びとコネクトしやすい。下半身不随でも自然分娩している人もいる」といった事実です。こうした多くの情報から、今回の脚本をまとめていった感じですね。当初は男性を主人公にするアイデアもあったのですが、ちょうどアメリカでは「女性性」を前面に出すムーブメントが盛んになって、「これは女性で描くべきだ」と変更し、作品の核ができあがっていきました。


Q:東京に戻ってきたとき、街に車椅子の人が少なかったことの違和感も、今作の物語の刺激になったとか……。


HIKARI:そうなんですよ。私が育った大阪では車椅子の人はけっこう目にした記憶があるのに、東京はあれだけ人口が多いのに街で見るチャンスは少ない。「それはなぜだろう」という疑問も、映画を撮るモチベーションにつながりましたね。


Q:製作費もご自身で奔走して集めたそうですね。


HIKARI:時間がかかりましたね(笑)。最初はアメリカで出資者を探したのですが、無名の障害者の女の子が主人公と聞いただけで、配給会社もテレビ局も門前払いです。日本を舞台にする映画だから、もっと早く日本で動けばよかったと反省しています。とにかく重要なのは、ピンときた人に遠慮せずに連絡すること。高校時代の友人も個人の出資者になってくれました。そうした草の根の協力がなかったら完成しませんでしたね。



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