※左:ロジャー・ディーキンス 右:サム・メンデス監督 (c)Photofest / Getty Images
カギとなる撮影スタイルは、物語の背景にカメラが控えていることだよ。ロジャー・ディーキンス撮影監督『1917 命をかけた伝令』【Director’s Interview Vol.54】
驚異のワンカット映像で圧倒的臨場感を作り出した『1917 命をかけた伝令』。撮影監督のロジャー・ディーキンスは、本作で見事アカデミー賞撮影賞を受賞した。想像しただけでも大変な撮影と思われる映像を、ディーキンスはどのように生み出したのか?ディーキンス本人に話を伺った。
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物語の背景にカメラが控える
Q:監督のサム・メンデスから、ワンカット映像で行くと言われたとき、どう思いましたか?
いやいや、言われてもいないんだ(笑)。サムから渡された脚本の表紙に「この脚本はワンショットで撮影されるように書かれている」とあって、それを目にして初めてサムの意図を知ったんだよ。だから、君の質問の答えは「サムはホンキなのか!?」だよ(笑)。それでおそるおそる脚本を読んで「なるほど」と思い、サムと話して納得出来た。正直、最初はギミック的過ぎるかもしれないと危惧したのだけれど、この物語には不可欠な撮影スタイルだと確信するに至ったんだ。
Q:ワンカット映像の場合、観客にそれを意識させるスタイルを取ることが多いように思います。たとえばエマニュエル・ルベツキがカメラを担当した『バードマン (あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)、のような撮影です。しかし、本作はその逆です。カメラがでしゃばっていない。このスタイルを選んだ理由を教えてください。
実は撮影スタイルについてもサムとちゃんと話したことはないんだ(笑)。ただ、私が思うに彼は当初、ハンディカメラで撮影するつもりだったんじゃないのかな? サムと初めて組んだ『ジャーヘッド』(05)のときは、全編を通してハンディカメラを握って現場を走り回っていたから。今回は脚本をもとに手始めに簡単な絵コンテを切り、コンセプトについて話し合い始めたとき、お互いがもっと形式的なスタイルであるべきだということに気づいたんだ。
観客にカメラを意識して欲しくなかったし、もしそんなことをしたら、カメラばかり気になってストーリーやキャラクターに入りこめなくなる。それに、ほかの私の作品にも言えることだが、私の理想は、シネマトグラフィは目立つことなく、物語の背景に控えているスタイルなのでね。つまり、本作のカギとなった撮影スタイルは、物語の背景にカメラが控えている、だよ。
Q:それはちょっと意外でもあります。というのも、あなたの撮影はいつも、いい意味で目立っているように感じるからです。
いやいや、映画で重要なのは物語だ。シネマトグラフィは物語を彩り、その内容をより豊かにするものであって、物語を圧倒することなどあってはいけないんだ。そうなったら、私はこの仕事を辞めなくてはいけない。
Q:いや、映画の内容を100倍くらい豊かにしているという意味です。
そうか、それならよかった。まだ辞めなくていいね(笑)。