飛躍の礎となった「かわいいと思われなくてもいい」決意
Q:素敵なお話ですね。思い出深い作品になったかと思いますが、「保育士」という職業を演じてみていかがでしたか?
伊藤:9歳のときから女優の仕事をさせていただいていると、たまに“職業の浮気”があるんです。中学校時代の職場体験も保育園に行きましたし、憧れの職業でした。
子どもたちはみんな素直だから、「ケロ先生です」って紹介されたときからもうずっと私のことを「ケロ先生」って言ってくれるんです。誰ひとり「伊藤さん」とか「沙莉ちゃん」ってならなくて、カメラが回ってないところでも遊びに来てくれたり抱きついてくれたり……。そういう環境だったからケロ先生でいられたし、確実にそこにいた子どもたちにケロ先生にしてもらったと思います。
Q:なるほど。今回のケロ先生もそうですが、伊藤さんの演技は「役を生きている」という感じがします。どうやってその技やスタイルを身に着けていったのでしょう。
伊藤:私は真っ当な「ザ・清純派」でもないですし、「激カワ」みたいなタイプでもない。「かわいい」と思われなくてもいいって思うんだったら変な顔も全力でやったらいい、と思って、「振り切る」というスタイルを徐々につかんでいきました。
その代わり、「(役を)作る」っていうことが難しくて、最近「自分がやってるのはお芝居なのかな?」とも思ったりします。疑似体験を常にしてる感覚になってきてて、泣こうと思ってなかったのに泣いちゃったりとか。でもそんな瞬間が一番楽しい。ひとつひとつの体験をシンプルに楽しむというのが、自分のやり方なのかもとは思いますね。
Q:まさに「役を生きる」境地ですね。しかし、役のリセットが難しそうです……。
伊藤:私はカットがかかったら「イエーイ」ってなるので、あまり引きずらないかもしれません(笑)。
あまりガチガチに固めていくタイプではなくて、ぽつぽつとやりたいポイントをもって現場に行きます。台本を擦り切れるほど読む、とかではなく実際に会話をしてみたらどうなるだろう?が楽しみなんです。
どちらかといえば“受信タイプ”なので、本当に出会いに恵まれたなと思いますね。
Q:これまでの女優活動の中で、印象的だった出会いはありますか?
伊藤:これからは大人の役者として生きていく、というタイミングで飯塚さんにお会いできたこと。
1回ある人に「制服を着てるあなたしか想像できない」って言われたことがあって、心底悔しくて。ただ、(飯塚監督と組んだ)ドラマ『GTO』(14)は制服ではあったけど1人の役者として対等に接してくださったと言いますか、「役者を育てる」時間だったんじゃないかなって思う空間だったんです。
俳優部にいると、特別な扱いをされたり気を遣わせてしまったりするんですが、演出部とか撮影部、録音部がある中での俳優部に過ぎない。これをストン、と落とさせてくれたのが飯塚さん。現場での居方を基礎から応用まで全部習って、そのタイミングで自分の意識がガラッと変わりました。
それまでの私は言われたことをやるだけでいっぱいいっぱいで、自分から提案したり発することをなかなかできていなかったんです。それをできるようになったのは、ちゃんと大人の役者になった瞬間なのかな?とは思います。
Q:恩人、ですね。ちなみに、多くの役者さんたちとの“出会い”の中で「これは盗んでやったぜ!」というようなテクニックはありますか?
伊藤:盗めてなかったら超ハズいけど(苦笑)、『全裸監督』の皆さんのアドリブは、私もやってみたい!と思いますね。あの肝座った感じってまだ私は出せなくて、ちょっと恐る恐るだったりするので……。
でも本当に大先輩方だったので、どう転んでも絶対に助けてくれる人たちって思うと自分からも発信してみようと思えますし、「意図を感じさせないアドリブ」を言えるようになったらカッコいいだろうなとはすごく思います。
(『全裸監督』で共演した)玉山鉄二さんとか、1人で勝手に腰を振っちゃうじゃないですか(笑)。台本には一切書いてなかったし、そういうキャラクターをちゃんと自分で作り上げているのがカッコいい先輩たちだなって思う。まだ盗めてないけど、いつか盗みたいですね。