『映像研には手を出すな!』で得た、新たな武器「足し算」
Q:出会いといえば、アニメ『映像研には手を出すな!』(以下、『映像研』)も大きかったのではないかと思います。こちらも傑作ですが、出演して得たものは?
伊藤:引き算と足し算の違いですね。足し算する、つまり大げさにするということに今まで抵抗感があったんですが『映像研』を通して、足し算の演技が観てくださった皆さんにフィットするところまで到達できた体験が大きかったです。
今までは現場で「もうちょっと(演技の出力を)上げられる?」と言われても対応できなかった部分が動けるようになったのは、これまで以上に頭と心が柔軟になったからじゃないかと思います。それは、『映像研』で浅草氏を演じて思ったことですね。
Q:すごく腑に落ちます。アフレコは、結構細かく演出が入ったのでしょうか?
伊藤:まずテストでバーッとやってから、本番に移る形です。ここはもっとテンション高く、とかここは“寅さん”っぽくとか、都度細かくご指示をいただいて。自分から発信するというよりは言われたことをかみ砕いて慣らすのが楽しいタイプなので、『映像研』の演出法は自分にはめちゃくちゃ合っていました。
Q:過去のインタビューでは「苦しい時期もあった」と話されていましたが、今日お話を伺ってきて、「楽しい」という言葉が印象的でした。どうやって試練の時を乗り越えたのでしょう?
伊藤:「いつでも辞められる」って思うように、考え方を変えたんです。そこまでしがみつかなくてもいいかなって手綱を緩くして。
9歳から女優をやってると、どうしても「これしかない」って思ってしまうんです。そうなると苦しく、つらくなってしまうんですが、シンプルに「楽しいからやってるんだ」って。それであまりにも仕事が来なくて「暇すぎ!」ってなったら、ケーキ屋さんとかでバイトしようとか(笑)、そう考えることで心が大分穏やかになりました。
Q:すごく沁みます。素敵な考え方ですね。
伊藤:自分がやりたいことをやれているという事実がもはや幸せすぎて、そこがあればいいのかなって。何か1つきっかけになるような作品に出ることで自分を知ってくださる方が増えて、それはとても嬉しいことですし。オーディションもいまだに緊張するんですが、お芝居できる環境自体がもう幸せで。それだけで十分かなって思います(笑)。
Q:ありがとうございます。この数年、伊藤さんは出演作も評価もうなぎ昇り。ご自身にとって、今はどんな時期ですか?
伊藤:スタート地点。
Q:スタート地点なんですね……!
伊藤:かっこつけちゃってごめんなさい(笑)。賞をいただいたりとか、嬉しいことが起きてるときは「ここからが勝負だぞ」と思うようにしているんです。
お仕事がなかったときは苦しかったけど、ありがたいことに順調にお仕事をいただけるようになったら別の悩みが起こるし、ひとつひとつぶち当たっていく時間が楽しいんです。
私は、ずっとそうやって女優を続けていくんじゃないかなと思います。
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伊藤沙莉
1994年、千葉県出身。2003年に子役としてデビュー。主な出演作に映画『全員、片想い/MY NICKNAME is BUTATCHI』(16)『獣道』(17)『生理ちゃん』(19)、ドラマ「この世界の片隅に」(TBS)「獣になれない私たち」(NTV)連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK)などがある。『榎田貿易堂』『寝ても覚めても』(18)等への出演によりTAMA映画賞最優秀新進女優賞、ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。
取材・文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」「シネマカフェ」「BRUTUS」「DVD&動画配信でーた」等に寄稿。Twitter「syocinema」
『ステップ』
(C)2020映画『ステップ』製作委員会
2020年7月17日(金)より全国ロードショー
※記事内容に一部事実誤認がありましたので、該当箇所を修正させていただきました。