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『映像研には手を出すな!』マンガの「個性」とアニメの「技巧」が融合した、げに面白き“最強の世界”

『映像研には手を出すな!』マンガの「個性」とアニメの「技巧」が融合した、げに面白き“最強の世界”


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湯浅政明監督の作風に、「リアル」が付加



1人ではたどり着けなかった、ものづくりの可能性。

仲間に出会い、見えたのは、果てしない「世界」だった。


 2020年に放送された中で、最も評価の高いTVアニメの1本だろう。大童澄瞳によるマンガを、国内外の映画・アニメ賞に多数輝く湯浅政明監督がアニメ化した『映像研には手を出すな!』。自主アニメーションの制作に情熱を燃やす、女子高生3人を描いた青春物語だ。


 高校1年生の浅草みどりは、大のアニメ好き。豊富な発想力を持ちながらも、臆病な性格でアニメ制作の同志を募れず、悶々とする日々を送っていた。そんなある日、プロデューサー気質の旧友、金森さやかを誘って「アニメ研」の上映会を訪れた彼女は、カリスマ読者モデルの水崎ツバメと出会う。彼女がアニメーター志望と知った浅草と金森は、3人で「映像研究同好会」を立ち上げ、アニメ作りに没頭していく。


 本作で興味深いのは、「アニメが出来上がる過程」を追える舞台裏の描写はもちろん、「現実と空想が混合」する構造や「ロボットや武器など、機械の微細な設計」「ブリューゲルやエッシャーを思わせるような立体的な都市設定」といった原作の独自性が、湯浅監督の才気によってカラフルかつ躍動的に“拡張”していること。




 色・音といったマンガ→アニメへの変換時に重要な要素はもとより、キャラクターのアクションやカメラワークにおいても跳ねるような湯浅監督ならではの筆致が加わり、原作をリスペクトしたうえで、ワクワクするほど自由に「遊んで」いる。


 湯浅監督の作風は、初期作の『マインド・ゲーム』(04)から顕著なように、デフォルメされた表現や物理法則を無視した動きで、感情表現を最大化する部分に大きな特徴がある。松本大洋の名作マンガを独自解釈でTVアニメ化した『ピンポン THE ANIMATION』(14)はその集大成的作品で、高速で球が行きかう卓球のスピーディな試合を、背景の強調線までもが伸縮する劇画調のタッチや、カメラを前後に激しく動かすドライブ感のあるアプローチ、極端に短いカットをテンポよくつなげる手法などで表現した。


 ワンカットでカメラが縦横無尽に動くカメラワークが増えてきた現代アニメにおいて、これらの湯浅監督の「魅せ方」は、非常に異端で独自性が高く、単なる「マンガのアニメ化」を超えた“芸術”の域にまで達しているといってもいい。



 しかし、こと『映像研には手を出すな!』においては「設定厨」の浅草や「リアル志向」の水崎に敬意を払うかのごとく、劇中で制作されるアニメーションにおいては重力や空気抵抗などを遵守している点が心憎い。それでいて、浅草の脳内に浮かぶ空想の世界になると、水彩のような柔らかく、手描きの“味”が残るタッチに切り替え、原作以上にはっきりと差別化を図っている。湯浅監督の強固な個性が全体に塗布されるのではなく、ここぞという場面に一極集中する形に整理された印象だ。


 湯浅監督が手掛けた『夜明け告げるルーのうた』(17)や『きみと、波にのれたら』(19)に見られるような“生きている”水の表現は、水と共に生きる街を舞台にした『映像研には手を出すな!』でも存分に生かされているし、やたら個性的なモブ(群衆)がもさもさと動く“濃さ”は、『四畳半神話大系』(10)や『夜は短し歩けよ乙女』(17)にも通じる。湯浅監督のイマジネーションと、原作の中に流れるリアリティの融合が、見事な配分で行われているのだ。


 そういった意味では、『映像研には手を出すな!』は湯浅監督の新たな「引き出し」を感じられる一作でもあろう。



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