撮影技術がもたらした可能性
Q:映画にでてくる法廷は映画のためにわざわざ作ったんですよね?
マルコ:僕たちが希望する日数を空けてくれる法廷がなかったんです。だから作ることにしたのですが、プロダクション・デザイナーのヨーゼフ・ザンクティオハンザーが素晴らしい仕事をしてくれました。
ベルリンのシェーネベルクの法廷をもとにして、少々アレンジを加えました。法廷もドラマの一部にしたかったんです。例えば、被告のためのガラスの檻、そして地下からこの檻へとつながってくる通路を作りました。まるで敵の待つリングに上がるように、地下から連れてこられるコリーニ、彼に観客が一体化できるようにするのが狙いです。
加えて、風防ガラスを使った光天井も設置しました。きれいに見えるだけでなく、とても時間のかかる撮影時のライティングが、不要になるようにしたんです。
Q:法廷のセットには複数のカメラを持ち込んだのですか?
マルコ:同時に3台のカメラで撮影しました。それにより、リハーサルの後、20~30分の長さのテイクで撮影できるようになりました。朝にまず俳優たちと2~3時間、舞台のように台詞だけでやってみる。それから台詞に命を吹き込む――動きを振りつけて、俳優たちのアイディアも取り込んでみるんです。そして最後に3台のカメラで撮影する。撮影監督のヤクブ・ベイナロヴィッチュはヨーロッパ屈指の撮影監督のひとりですよ。
Q:ヤクブの撮影は何が良かったですか?
マルコ:何よりも照明の使い方ですね。それから彼はグリップにとても重きを置きます。空間を浮遊するようなカメラの動かし方のおかげで、カメラまでもが物語の一部になったかのようなんです。仰々しい言い方になってしまいますが、カメラの動きを通して俳優たちの感情が見えてくるんです。
最初はこうしたカメラのテクノロジーが、演出を限定してしまうのではないかという懸念がありました。でも、それは反対なんだと気づかされましたよ。ヤクブのカメラが何にでもすぐに反応してくれるから、結果的に可能性がすごく広がりました。
ヤクブはまた、アナモルフィック・レンズを使ってシネマスコープで撮影したいと言いました。プロなら映画にとって最高のクオリティがシネマスコープだということに疑いをはさむ人はいないでしょう。そして出来上がった映像が本当に素晴らしいから、観客にとっては眼福なんじゃないかと思いますね。
Q:本作を実現するために、いろいろな撮影技術を駆使したんですね。
マルコ:この作品には、いくつかの時代設定がありますからね。1944年にはデジタルカメラがなかったから、この時代をアナログで撮ればいいと思うかもしれない。でもそれでは昔だということをとても強調してしまう。歴史の授業を見ているような気にならないためにも、こうしたシーンは特に現代風に見えた方がいいと感じました。観客にもリアルタイムで体験しているように感じてほしかったのです。
ですから、2001年と同様、1944年のシーンもデジタルで撮ることにしました。反対に、80年代のカスパーの幼少期の記憶の部分は35ミリフィルムを使ってアナログで撮りました。これにより、ものすごく刺激的なビジュアルデザインになったと思います。