感性を鍛えるのは、経験や会話
Q:カメラワークは、プリプロダクションの段階である程度決められるとおっしゃっていましたが、カット割りなども、撮影段階では藤井さんの頭の中にあるのでしょうか。
藤井:基本的に、芝居を撮るまでは決めないつもりでいます。ただ、つばめの夢のシーンのような特殊なカットは、前もってイメージを伝えたり、千蔵さんに何かアイデアがありますかと聞きます。
今回、劇中で出てくる水筒や、予告でも観られる水たまりのシーンも千蔵さんのアイデアなんですよ。画で見えている千蔵さんの世界を、人間の感情として僕が繋げていくようなイメージです。特殊なカットについては、事前にファミレスで何時間もこもって、カット割りを全部作るんですが、芝居については現場でどんどん作っていきますね。
Q:監督と撮影監督の間で、うまく意見が合致しないことなどはなかったのでしょうか。
藤井:それで言うと僕が先手を打ちますけど、僕が死ぬほどせっかちで、子どもなんです。だから現場で「そうじゃない、こっちだ」みたいなのは絶対あって、千蔵さんを何度かイラつかせてしまった反省はありますよね。
上野:まあそりゃね、意見が違うときはあるよね。でも僕の感覚では、最初にちゃんとイメージを共有していてくれたから、そこまで衝突はなかったと思います。基本的にはお芝居に対して、純粋に撮る、という感じ。
いま話に上がった水たまりのシーンでいうと、「星ばあが本当に空を飛んでいるのか?つばめがそう錯覚したのか?」というのはとても大切なポイントでした。というのも、どっちになるかで自分が感覚的に目指す映像の世界観が大きく変わるからなんです。僕的には、より現実的な世界観に引き戻したかったから、水たまりというフィルターを挟んだらいいんじゃないかな?と提案しました。
藤井:本当に心の底から自分の手柄にしたかったです。あのアイデアは(笑)。
Q:これは以前、藤井さんにもお聞きしたことなんですが、アイデアが浮かんでくるためには、自分の中に素養がたくさんなきゃいけないと思うんです。千蔵さんはどういう風に、ご自身の中のイマジネーションを鍛えてきたのでしょう。
上野:それでいうと僕はそれほど映画とか詳しくなくて(苦笑)。どっちかっていうと、旅行に行ったり山に登ったりとか、キャンプ行ったり音楽やったり、そういったものから得ている気がします。もちろん映画も好きなんですが、実際にフィールドに出て、自分で能動的に動くことで感性を育てている。
映像を観ていてたまに感じるのが、「これ、撮ってる人の経験からきていない。自分の肌で感じているものじゃないな」ということ。そう思わせちゃうものって、やっぱり薄っぺらいんです。僕たちって、どんな現場でもセットに立てば、どんな距離感も立体的になって、そこに空間が立ち現れる。そういったときに、自分自身の“経験”が生きてくると思うんです。
藤井:僕は千蔵さんとは真逆で、海も山もあんまり好きじゃなくて、インスピレーションの全ては会話というか、人と会うことが根源にある。若い人は今何を考えているんだろうとか、40歳の人は日本をどう見ているんだろうとか。余談ですが、今回は14歳の女の子の話だけど、主題に持っていったのは、醍醐虎汰朗くん演じる同級生の笹川の目線だったんです。彼に自分を投影すると、つばめが撮りやすくなったんですよね。