藤井監督流の演出術は、役者に寄り添うこと
Q:様々な方と会話することで、ご自身の中にペルソナを多数ストックしていくんですね。この流れで演出のお話もお聞きしたいのですが、藤井さんは現場で、どのようにして役者さんの演技を導いていくのでしょうか。
藤井:僕はまだ名監督でも何でもないから、あんまり自分のオリジナルな感覚を信じてるわけではないんです。ただ、物語(脚本)を書いているのは自分なので、ひとつひとつのセリフが、自然に出てくるように、というのは気をつけて演技を見ています。
「こんな奴いないだろ……」っていうのが、すごく嫌いなんですよ。「お芝居っぽい」のが大嫌いなんです。役者さんは皆さん上手いから、演出がなくてもある程度できちゃうんですよ。ただそこにちょっとだけ淀みがあるな、感情の整理ができてないなと思ったり、今ちょっと力業でお芝居されたなってときには、こっち側でやってみたらどうですか、みたいに提案はします。今はまだ、役者の横で、芝居を見られる人になれるように勉強中ですね。
Q:たとえば是枝裕和監督は子役には台本を渡さないとか、大森立嗣監督は新人の子に「信頼してる」と伝え続けたりとか、それぞれに役者へのアプローチがあると思うのですが、藤井さんならではの向き合い方はありますか?
藤井:絶対にトランシーバーで演出を付けないっていうのは、心がけていますね。その人が座り芝居だったら自分も座って、見る。上から何か物を言うっていうことは絶対にせずに、一緒の目線でものを作りたい。目線を変えないというか、桃井かおりさんだろうが清原果耶さんだろうが誰でも変えないっていうのは、意識しています。
僕は自主映画出身なので、モニターもなければ、シーバーもないところから始まってるんですよ。自分でも撮影をしたり照明もできるようになって、ミキシングを覚えて、一応全部署できるようになりました。最近はちょっと歳なのか、椅子があるとすぐ座っちゃうくせがついてきちゃって良くないなと思ってるんですけど(笑)、基本的には現場が大好きなので、役者のそばにいたい。芝居の場所から離れたところにモニターとか置かれると、すごく嫌ですね。
前田:藤井監督はすごくフットワークが軽くて、暑い中でも役者が何か言ったらぱっと走っていってましたね。相手の目線に立って話すことを常にやっていました。あと、アイデアマンでもあります。悩んでた役者が「そうすればいいんだ」って納得するようなことを、パッと言える。
上野:役者さんから相談されたりとか、これはどういうことなんですかって質問がよくあるじゃないですか。その時はもうすぐに返す刀で、ものすごく的確に丁寧に説明する。例え話とかも交えてズラーって話して、納得させちゃう。なるほどなって思うことがよくありましたね。この人は、高い壺とか売ったらすぐ成功するだろうなって(笑)。
藤井:やめてー(苦笑)。印象妨害ですよ!(笑)
上野:大丈夫、絶対売れると思うよ。
前田:藤井監督がそういう話を役者に話してると、面白いからスタッフも聞いて、同時に彼らも「あ、そういうことか」って理解して、それを共有できる面白さがありましたよね。確かに、詐欺師としても、すごく成功すると思いますね。
藤井:やめて!
Q:(笑)。