いま世界の映画界を見渡して、「限界を知らない女優」として真っ先に思い浮かぶのは誰か?それはイザベル・ユペールかもしれない。フランスを代表する超実力派女優でありながら、ここ数年、彼女は「限界突破」の演技で観客を驚かせている。アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた『エル ELLE』(16)では、自宅でレイプされながらも、とんでもない行動に突っ走る女性を熱演し、『グレタ GRETA』(18)ではストーキング行為の末に恐ろしい犯罪をおかす中年女性を、文字どおり「怪演」した。
その流れで『ポルトガル、夏の終わり』のイザベル・ユペールを観るのは、むしろ新鮮な体験かもしれない。彼女が演じるフランキー(原題にもなっている)の職業は、ユペールと同じ女優。どう考えても、素顔のユペールが投影されているのではないか? 自分の死期を悟ったフランキーが、ポルトガルの世界遺産の街、シントラに、親族や友人を呼び寄せる、わずか一日の物語。
大女優がどのような思いで挑んだのか?単独インタビューで、演技へのアプローチ、日本の「ある人」への思いなども聞いた。目の前のユペールは、気品と優雅さをまったく崩さないまま、どんな質問にも瞬時に、率直に答える。ある意味でイメージどおりの人だった。
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ユペールの心を射止めた、繊細さを表現できる監督
Q:多くの出演オファーがあると思いますが、この『ボルトガル、夏の終わり』への出演の決め手は何だったのですか?
ユペール:最大の決め手は、監督ね。アイラ・サックス監督の『人生は小説よりも奇なり』(14)と、『リトル・メン』(16)の2作に心から感動したの。両方とも、映画の繊細な部分で観る人の心を動かす作品だった。とても賢い監督だと感じたわ。何も会話のないシーンで、俳優から引き出される感情。そして、ひとつの行動から生み出される人間の本質……。これこそ、私がやってみたい世界だと思ったの。
Q:そのサックス監督からオファーがあったわけですね。
ユペール:そうなの。最初は手紙やメールでやりとりが始まって、いい関係が育まれたところで、サン・セバスチャン国際映画祭、そしてニューヨークで、直接対面したわ。そこでアイラから脚本を書き始めたと聞かされたので、私も主人公を演じることを承諾したの。とてもシンプルで、納得のいく流れだったわ。
Q:監督がフランキーを女優として脚本を書いたことで、あなたにも特別な感情がめばえたのでは?
ユペール:演じるうえで、何かリアリティを追求できると思って、ちょっと楽しみになったわ。多くのパートで、演じる役と自分自身が一体になる可能性があるわけで、どこかドキュメンタリーっぽくなる期待感も湧き上がったの。
Q:ということは、フランキーの多くの部分が、あなた自身と重なっているのですか?
ユペール:そういうわけでもないわ。フランキーは特殊な状況にいる。人生の危機に立ちつつ、まわりの人々をコントロールして、厳しいことを言ったりもする。私の人生の経験とも違うので、演じる際には「共感する」のではなく、役の側面を「強調する」という意識で臨む。これはいつもの私のやり方どおりよ。