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『バットマン フォーエヴァー』よ永遠なれ【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.46】

『バットマン フォーエヴァー』よ永遠なれ【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.46】

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作品のカラーが生んだトゥーフェイスの魅力





 ネオンカラーと同様に作品の顔として強烈な印象を残すのはトゥーフェイスとリドラーの二人組だが、特にぼくのお気に入りはトミー・リー・ジョーンズ扮するトゥーフェイスで、本作をきっかけにバットマンの悪役の中でも好きなキャラクターのひとりとなった。トゥーフェイスは元々はバットマンや市警のジム・ゴードンとともにゴッサムの犯罪と闘う地方検事ハービー・デントだったが、マフィアの策略により顔に火傷を負い(基本的には硫酸を浴びる)抑圧されてきた暴力的な面が表出して怪人と化してしまうという悲劇の人物でもあるのだが、そうしたバックグラウンドや根底にある人間味がほかの悪役たちとは一線を画する。


 ハービー・デント自体はバートンによる1作目にも登場するが、こちらは『スター・ウォーズ』シリーズのランド・カルリジアン役で知られるビリー・ディー・ウィリアムズが扮していた。エレガントで同時にどこか暗さも感じさせる雰囲気だったが、バートン版トゥーフェイスは見られずじまいだった(バートンによる三作目が構想されていた段階ではトゥーフェイス役はビリー・ディーとされていた)。そうして、『フォーエヴァー』では作品の色彩を反映したかのような派手なヴィジュアルのトゥーフェイスが実現する。


 本作のトゥーフェイスはとにかくハイテンションで、つねに笑いながら子どものようにはしゃいで悪事を働く様子は、ほとんどジョーカーのようである。公開当時このキャラクターについて知るファンの多くは戸惑ったというが、逆にあとから原作のイメージを知ってもギャップを感じる(トミー・リー・ジョーンズの他の役柄や現在のイメージからもかなりギャップがあるのではないだろうか)。前述のようにデントとは正義に燃えながらも深い闇を抱えた不安定な人物であり(この点からもバットマンと対に位置づけられる)、顔の負傷によってダークサイドの側が理性を支配してしまった姿がトゥーフェイスなのである。後の『ダークナイト』でショッキングな「顔」を見せたバージョンのほうが、本来のイメージに近いのだろう。端正な顔の片側が目を背けたくなるほど変わり果ててているという不安定さが、このキャラクターの重要な点である。


 とは言え、トミー・リー・ジョーンズ版も違う形でその魅力を表現していると思う。向かって左半分は背広姿で黒髪をポマードで撫でつけた平凡な姿であるのに対し、右側は燃えるようなマゼンタ色のケバケバしいデザインで、左右の強弱は申し分ない。ダメージを負った顔も色彩とほどほどなメイクによりキャラクターとしてのポップさを保っているので、マクドナルドのフライドポテトの入れ物に描かれていてもそれほど抵抗はなかっただろう(もしもバートン版が実現していたらと思うと……)。確かにこのトゥーフェイスには暗さはないのだが、狂気じみた派手な色彩により、暴力的な面が表に飛び出してきた様をよく表せていると思う。両側の違いが明確であればあるほど、この怪人の体現する二面性が伝わってくるのだ。


 衣装のデザインもその造形には欠かせないところだが(色彩はもちろん、スーツ、シャツ、ネクタイ全てが柄物である)、シーンごとに少しずつ違うものを着ているところもおもしろいというか、かわいいところである。元々ファッション・デザイナーだったシュマッカーならではというところか。美術もおもしろいが、中でも部屋の真ん中を境に全く違う調度、デザインになっているトゥーフェイスの隠れ家が最高だ。その二面性(と呼ぶにはあまりに表面的な感じなのだが)を反映させた部屋に加え、シュガーとスパイスというやはり対になるような格好の情婦がいるのだが、ライトサイドのシュガー役はドリュー・バリモアだったりする。


 ちなみに意外な出演と言えば、のちにリドラーとなるエドワード・ニグマが務める部署に、ブルース・ウェインが視察にやってくる際(このとき自身の発明をウェインに一蹴されることからニグマは悪に走る)、背後にひかえる側近の中にジョン・ファヴローがいるのには驚いた。若くて痩せていて全然印象が違うし、セリフもなければアップにもならず言われなければわからないが、よかったら確認してみてほしい。アメコミ界の2大億万長者の両方に仕えた男と言える。



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