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『バットマン フォーエヴァー』よ永遠なれ【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.46】

『バットマン フォーエヴァー』よ永遠なれ【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.46】

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60年代TVシリーズのアップグレードとしての『フォーエヴァー』





 トゥーフェイスと同盟を結ぶリドラーもまた本作のアイコンだが(本作のロゴデザイン等にはクエスチョン・マークがあしらわれており、メイン・ヴィランはリドラーと言える)、ジム・キャリーによるそのコミカルで異様なテンションはトゥーフェイスの比ではない。身体にぴったりのタイツ姿で軽やかに跳ね回る姿が印象的だが、ジム・キャリーは本作の前年に、あの『マスク』で同じくコミカルなキャラクターを演じており、このふたりの怪人の役作りはほとんど同時になされていたと言ってもいいだろう(本作でドリュー・バリモアとの絡みがあるのに対し、『マスク』はキャメロン・ディアスとの共演というのも、のちの『チャーリーズ・エンジェル』繋がりでおもしろい)。


 しかし、タイツ姿ではしゃぎまわるリドラー自体は、1960年代テレビシリーズ版『怪鳥人間バットマン』のフランク・ゴーシンが演じたリドラーが参照元だろう。60年代版のリドラーはバットマンを陥れる作戦を立案する参謀のような役どころで、悪役としてはジョーカーと並ぶ存在感だった。ジム・キャリー版はコミカルさや狡猾な頭脳を引き継ぎながら、それらを最大限に誇張している印象だ。


 言ってみれば本作は『怪鳥人間バットマン』の90年代アップグレード版なのだろうと今にして思う。ネオンに彩られた派手なゴッサムは60年代のカラフルな色調を置き換えたものと言えるし、メインの悪役がリドラーであることに加え、バットマンの相棒ロビンも登場する。唐突に挿入されるバットマンとロビンが並んで正面に向かって走っていくイメージは、件のTVシリーズのオープニングアニメのオマージュだ(これには最近気づいたのでそれまであの走るシーンが非常に不思議な印象だった)。


 次作『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』にはバットガールが登場するが、やはりTVシリーズではロビンに加えバットガールもメインキャラクターである。シュマッカーのバットマンはその色彩や荒唐無稽さから、かつてのTVシリーズのようであると揶揄されることも多いが、そもそもそれが着想としてあったのだろう。評価はともかくして、そのアプローチ自体は悪くないし、現在それをやったらどんなふうになるだろうと思うとわくわくする。クラシックでキッチュな世界観に新しさを加えるというのは、今のほうがうまくいきそうな気がする。


 トゥーフェイスの派手なヴィジュアルも、もし60年代のTVシリーズにトゥーフェイスが登場していたらという仮定に基づいて考えていそうでもある(60年代版の主要な悪役にはジョーカー、リドラー、ペンギン、キャットウーマンという有名どころが揃っているが、トゥーフェイスは登場しない)。そう思うと、トゥーフェイスらしからぬあのテンションの高さにも納得がいく。TVシリーズの悪役たちは、ジョーカーのみならず皆一様によく笑うのだが、そういうわかりやすいコミカルな悪役の調子を踏襲したものなのだ。バートン版トゥーフェイスもとても見てみたかったものの、このトゥーフェイスもやはり唯一無二、このバージョンにしかない良さがあるというものだ。


 バートンと言えば、劇中にはもうひとつ彼に因むものが仕込まれている。物語のラスト、怪人たちとの決着がついたあとで、ニコール・キッドマン扮するチェイス・メリディアンがリドラーが収容されているアーカム病院を訪れるが(映画にアーカムが登場するのも本作が初めてである)、彼女はそこで、リドラーがその頭脳により感づいたと思われるバットマンの正体について聞き出そうとする。その際、彼女を患者のもとに案内する医師の名前がバートン博士なのだ。鳥の巣のようなクシャモシャな髪型で風貌も寄せており、バットマンの映画化に大きな役割を果たして彼に敬意を表している(?)。


 コミカルな印象の本作だが、ブルース・ウェインのトラウマにもう一歩大きく踏み込んでいたり(コウモリが飛来する悪夢が何度も挿入されるのが印象的だ)、家族を失ったディック・グレイソンという若者が、決意を胸にロビンになる過程など、悪役以外の部分ではシリアスな要素も多い。悪役サイドがここまで書いてきたように露悪的なお祭り状態であるのに対し、ブルース・ウェイン周りはつねに静かで落ち着きがあり、その対比はまるで映画自体をトゥーフェイスの姿のように感じさせる。


 そうでなくとも、バットマン映画というのは常に悪役たちの存在感が大きく、対するバットマンはタフでかっこいいものの、ヴィジュアル自体はかなり控えめになりがちだ。しかし、それでいいのだろう。その違いが顕著であればあるほど、闇の騎士の静かな力強さが際立ってくるのではないか。


 色彩や雰囲気、そして作品のアプローチもほかのバージョンとは全く違うけれど、シュマッカーによる『バットマン フォーエヴァー』もまたお気に入りのバットマン映画である。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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