4.『弥生、三月 君を愛した30年』(20) 監督:遊川和彦 109分
『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(20)でダークなキャラクターを再び演じた成田の新たな挑戦は、1人のキャラクターの30年間を演じ切るという役者冥利に尽きる難関となった。
テレビドラマ『家政婦のミタ』(11)の脚本や、映画『恋妻家宮本』(17)の監督・脚本を担当した遊川和彦による純愛映画。各年の3月のある1日を30年分積み上げていく――つまり、「30年間を3月だけで描く」という凝った作りになっており、演じ手には相当負担と技量が求められる内容といえる。
1986年の3月1日。運命的な出会いを果たした高校生の弥生(波瑠)と太郎(成田)は、互いに好意を抱きながらも、親友のサクラ(杉咲花)の存在もあり、なかなか言い出せずにいた。そんな中、サクラが病死。すれ違っていく2人は、別々の運命をたどっていくのだが……。
23年間の「7月15日」だけに焦点を当てた男女のラブストーリー『ワン・デイ 23年のラブストーリー』(11)や、すれ違い続ける男女を切なく描いた『あと1センチの恋』(14)に通じる要素を内包しつつも、東日本大震災などを盛り込み、独自の展開を形成。若々しかった高校生が、結婚や身近な人の死を経験し、子の親となり人生観がどんどん移ろっていくさまと、いつまでも変わらない互いへの純愛の相克が、ビターな味わいを観る者の口内に広げる。
構造がしっかりしていても、役者の演技に説得力がなければ、「設定負け」してしまうリスキーな企画といえるが、成田は波瑠とともに、全身全霊の熱演を披露。太郎が幾多の挫折にさらされ、精神的な“老い”に克てなくなっていく様子を「ピアニッシモ」な弱さのグラデーションで魅せる。