5.『窮鼠はチーズの夢を見る』(20) 監督:行定勲 130分
公開前から話題沸騰中の本作は、成田のさらなる進化を決定づける逸品となるだろう。テレビドラマ化された「失恋ショコラティエ」も手掛けた水城せとなによるコミックを、『劇場』(20)が好評な行定勲監督が映画化。
他人に流されがちで、受け身の恋愛ばかりしてきた恭一(大倉忠義)は、大学の後輩・今ヶ瀬と7年ぶりに再会。「出会った頃からずっと好きだった」と打ち明けられ戸惑うも、少しずつ今ヶ瀬の想いを受け入れていく。だが、幾多の試練が2人を待ち受けていて……。
怨嗟も含めた男女の性愛を、清濁混ぜ合わせて描いてきた行定監督。企画を打診されたという本作では、恭一と今ヶ瀬を中心とした登場人物たちが、愛を知り、愛に惑い、愛に救われていくさまを、性差を超えた普遍的な“想い”、さらには“欲動”にまで昇華。R15+指定のラブシーンもきっちりと描写しつつも、抑えきれない感情が結実した果ての行為、といった具合に、そこに至るまでの変遷を丹念に描写している。
成田は本作で、恋慕や嫉妬、執着といった感情を、“目線”に乗せた艶やかな演技を披露。眼差しだけで濃密な想いが流れ込んでくるかのような、柔らかに見えて“圧が強い”視線。それを受け流しつつ、抗えなくなっていく大倉との攻防も、大きな見どころだ。美しさが香る切ないラブストーリーだけでなく、ハイレベルな演技対決をも堪能できる。
いわゆるLGBTQをテーマにした作品は、最近では『ムーンライト』(16)が1つの契機となり多く制作されるようになった印象だが、『怒り』(16)や『影裏』(20)など、日本でも少しずつ数を伸ばしている。本作の公開が、後続の映画制作にどのような影響を及ぼしていくのかも、注目していきたいところだ。
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作品ごとに新たな「課題」を背負い、及第点を大きく上回る結果を出すことで、明確な進化を遂げてきた成田。冒頭にも述べたように、彼の周囲に渦巻くオーラは、表面的な美しさとは無縁。むしろ役のためなら、美しさも平気で捨てそうな頓着のなさが、観ていて実に心地よい。
20代で既に「険が抜けた」成熟度を漂わせる役者・成田凌。人に倣わない道を往く彼の今後が、実に楽しみだ。
文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」「シネマカフェ」「BRUTUS」「DVD&動画配信でーた」等に寄稿。Twitter「syocinema」