田中裕子15年ぶりの主演映画は、沖田修一監督作品。驚きと楽しみが一気に押し寄せたこの映画『おらおらでひとりいぐも』を見てみると、確実に田中裕子の映画であり、確実に沖田修一の映画であった。つまり最高だったのである。いつもの沖田ワールドは今回も健在で、抜群に面白い映画に仕上がっていた。何をどうすればこんなに面白い映画が撮れるのか?田中裕子との仕事はどうだったのか?沖田監督に話を伺った。
Index
- 脚本は自分の母親を映画化する勢い
- 感動的な音楽をかけると恥ずかしくなってしまう
- 田中裕子、初顔合わせで歌まで作ってくる
- 鷲尾真知子さん、すごく良かったです
- 沖田映画の雰囲気を作る安宅紀史の美術
- 「ほっこりした日常」とか見たくない
- 家族に内緒で『水のないプール』を見てました
脚本は自分の母親を映画化する勢い
Q:本作に携わられた経緯を教えてください。
沖田:アスミック・エースの竹内プロデューサーから、「おらおらでひとりいぐも」という小説があるんですが、是非映画化しませんかとお話をいただきまして。それで原作を読み始めたのが最初です。
Q:原作を読まれた印象はどうでしたか。
沖田:とにかく方言が多くて、最初はとっつきにくかったですね。内容的にも映画にするのは難しそうだなと。
Q:その映画化が難しい内容を、沖田監督自身が脚本に落とし込むわけですが、脚本作りはどのように進められたのでしょうか。
沖田:おばあさんの桃子さんが一人で家にいて、心の中の自分と対話している話なのですが、それをどう映画として見せていくのか、というのがまず難しかったですね。最初は半分挫けてました(笑)。
しかも原作では、その対話の相手が「柔毛突起」と表現されていて、そのまま映像化すると多分CGになるのですが、それは自分の映画っぽくないなと(笑)。でも結局は対話なので、CGではなく人が演じて会話した方がいいなと思いまして、それで脚本を書き始めたら、台詞の掛け合いが中心になっていったんです。そこからやっと進んでいけました。
Q:「柔毛突起」を人に置き換えるというのは、原作からすると大きな改変になるかと思いますが、その辺りは原作者の若竹千佐子さんとはどのように話されたのでしょうか。
沖田:大きな改変はもう一つあって、うちの母の話を結構組み込んでいるんです。うちの母は東北から出てきた人で、関東近郊で一人暮らしをしていまして、家庭環境も含めて桃子さんとすごく似ているんですよ。うちの母親を映画化するぐらいの勢いで脚本を書いていきましたね。
なので、映画に出てくるエピソードの多くは、実はうちの母の話なんです。太極拳やったり、大正琴やったり、カーディーラーの営業が来たり、警察が苦情を言いにきたり、、などなど、全部うちの話なんですよ。
そうして脚本を書いていくと、原作と違う箇所が多くなってしまいまして、、さすがにこれは怒られるかなと思ったのですが、若竹先生は「全然自由にやってください。」という感じだったんです。
Q:若竹先生からの修正指示などは、全然無かったのでしょうか。
沖田:柔毛突起を擬人化した、寂しさ1,2,3(映画では、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎が演じる)とかは、さすがに何か言われるかなと思っていたのですが、全く何も言われず、全面的にこちらに任せていただけました。だったら、自分なりの映画にさせてもらおうと、その調子でどんどん脚本を進めました。
Q:完成された映画をご覧になって、若竹さんはどのような感想をお持ちでしたか。
沖田:「原作をたくさん読んでくださっていますね」と、すごく喜んでくれました。原作から、かなりはみ出したつもりだったんですが、使っている台詞や大きな核になるテーマみたいなものは変わっていなかったので、原作にある重要な所はちゃんと映画化出来ていたのかなと。