是枝裕和監督×スターサンズの強力タッグ
Q:本作は企画に是枝裕和さん、エグゼクティブプロデューサーにスターサンズの河村光庸さんが入っていて、すさまじいメンバーだと感じています。おふたりとのコラボレーションはいかがでしたか?
仲野:僕も俳優部としていろいろな現場に行きますが、新人の監督がこれだけ時間をかけてどこまでも丁寧に作品を作ることができる環境は本当に奇跡的だと思います。佐藤監督という若い才能を圧倒的に信じているとても優秀なスタッフがいて、それを完璧に支える地元の方々がいて、さらにそのチームを万全の状態に整える是枝さんや河村さんの尽力があって……。
そして、月永雄太さんが第68回サン・セバスティアン国際映画祭最優秀撮影賞を受賞された。監督がクリエイティブを存分に表現できた現場でしたね。本当に奇跡的でした。
佐藤:是枝さんがいなかったら、撮れなかったですね。新人の映画監督がオリジナル脚本で商業デビューすることがなかなか難しい中で、是枝さんが背中を押してくださった。ものすごく幸運だなと思っています。
『泣く子はいねぇが』は制作が1年延びてしまったんですが、その前に助監督や太賀くん、プロデューサーと一緒に男鹿にナマハゲを観に行く機会を作ってくださったり、その後も何か壁にぶつかってしまったときに是枝さんが出てきてアドバイスをくださったり……。本当に多くを学びましたし、甘えちゃいけないとも感じました。
Q:佐藤監督が脚本制作に費やした5年もの間、モチベーションを保ち続けられた理由は、是枝さんの存在も大きかったのでしょうか。
佐藤:はい。是枝さんの存在と、男鹿に通う中で知り合った人々が、決して男鹿のいいところばかりを描いているわけではないこの話に理解を示して、応援してくれて……そしてそんな人たちが、少しずつ増えていったことが大きかったです。
そして、多くの方が見守ってくださっている中で、自分たちの手で作り上げることができた。じつは当初から、ラストシーンは変わっていないんです。
この作り方は、今後の自分の基準になっていくと思います。
Q:本当に理想的な環境での制作だったのですね。劇中、砂浜を太賀さんが全裸で走っていくシーンがありますが、体力的になかなか過酷だったのではないかと思います。他にも身体を張った場面が多くありますが、こなせたのはやはり監督との信頼関係があればこそだったのでしょうか。
仲野:そう思いますね。もちろんいま思えば過酷なシーンはいくつかありましたが、とにかく脚本が素晴らしかったから、苦労とも思わなかったです。
それは僕だけじゃなくて、スタッフ・キャスト全員が監督のことを信頼していて、脚本にほれ込んでいて、“それ以上”のことをするために動いていた。そういう現場だったんですよね。