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『泣く子はいねぇが』監督:佐藤快磨×主演:仲野太賀、2度とない“奇跡”の現場【Director's Interview Vol.94】

『泣く子はいねぇが』監督:佐藤快磨×主演:仲野太賀、2度とない“奇跡”の現場【Director's Interview Vol.94】

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「この映画は、今後の自分の基準になる」と語る監督と、「この映画で、覚悟が決まった」と語る役者。そしてふたりが口をそろえて言う、「幸運」「奇跡」の制作現場――。


11月20日に公開を迎える映画『泣く子はいねぇが』で劇場デビューを果たす新鋭・佐藤快磨監督と、主演を務めた若き演技派・仲野太賀。ふたりの熱弁が、まるで止まらない。本作には、作り手たちを湧き立たせる何かがあるようだ。


佐藤監督が5年以上もの歳月をかけて脚本を練り上げ、秋田県・男鹿半島の「ナマハゲ」を題材に「若き父親の成長」を描いた本作。娘が生まれるも大人になりきれず、泥酔してある事件を起こしてしまった青年・たすく(仲野太賀)。妻・ことね(吉岡里帆)と娘に去られてしまった彼は2年後、東京でくすぶっていた。そんな折、親友の志波(寛一郎)からことねの近況を聞いたたすくは、一念発起して帰郷。自らの過去と向き合っていく。


本作にほれ込んだ是枝裕和監督が企画を担当し、『新聞記者』(19)ほか力作を連発する製作会社、スターサンズの河村光庸がエグゼクティブプロデューサーを務めたことでも話題を呼んでいる本作。仲野がとびっきりのどうしようもなさで、主人公を哀切に演じ切ったかと思えば、撮影監督の月永雄太が第68回サン・セバスティアン国際映画祭で最優秀撮影賞に輝くなど、早くも結果を残している(審査員長は『君の名前で僕を呼んで』(17)のルカ・グァダニーノ監督だ)。


国内の映画ファンの心もわしづかみにするであろう、『泣く子はいねぇが』。その裏側を、監督と主演のコンビにたっぷりと聞いた。


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監督と俳優の最も健全なコミュニケーションだった



Q:おふたりの出会いは、2015年の短編映画『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』だそうですね。


佐藤:プロデューサーさんが(仲野)太賀くんを推してくださったんです。「撮れるのならぜひ!」と思い、お願いしました。


仲野:最初にお話しいただいたときに、「若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)」という新人の監督さんをバックアップしていく企画だとお聞きして、そういった企画があるんだなと思いながら脚本を読んだら、これがもう面白くて。佐藤監督という稀有な存在と出会えた瞬間でしたね。


30分の作品ではありましたが、躍動している感じがありつつ、ちゃんとシリアスな物語の軸がありながら人間のおかしみや滑稽さがある。佐藤監督は、誰かが決めた“世間の平均点”からちょっと足りなかった人を、いとおしく描ける人だと思いました。シリアスなものをシリアスなままに描ける人はいるけど、おかしみを込めて伝えられる人はなかなかいない。


Q:その後、佐藤監督の長編デビュー作『泣く子はいねぇが』(20)で再タッグ。おふたりは“再会”して、いかがでしたか?


佐藤:太賀くんが歩み寄ってくれた部分がすごく大きくて、スタッフの皆さんと共に導いてくださった、すごく幸せな商業デビュー作になったと思います。


今まで撮ってきた映画は、自分の中から出てきたテーマや自分に近いものを描いてきたと思うんです。『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』の主人公には少なからず自分を投影している部分があって、太賀くんが僕自身も背負ってくれながらキャラクターを体現してくれた体験がすごく記憶に残っていて。そのときから、「ナマハゲがテーマの作品があるんだけど、ぜひお願いしたい」という思いがありましたね。




仲野:今回は本当に密にディスカッションができましたよね。吉岡里帆さんからは「当人同士は真面目に意見交換をしているんだろうけど、傍から見たらイチャイチャしてる」と言われました(笑)。たぶん、互いに補い合っていたんだと思います。


佐藤監督は、演出が結構抽象的なんです。でも、「それはそうだな、言葉にできないよな」と思って、自分なりに咀嚼して具体的な行動に移していきました。そのやり取りが、滅茶苦茶心地よかったんですよね。監督と俳優のコミュニケーションとして、いちばん健全だった気がします。


佐藤:僕自身、自主映画を作っていたころから「演出って何だろう?」と考え続けてきました。他の監督のワークショップなどを見ていると、皆さん確固たる演出方法や役者さんへの向きあい方がある。ただ僕は、動きとか感情を決めたときのお芝居よりも、揺れているもののほうが好きなんですよね。


自分が出したものと、太賀くんが出してくれるもの、そのどちらも間違いじゃないし、人って相反する感情を抱きながら行動するものだとも思っているんです。俳優さんのお芝居によって連鎖していくものが撮りたいという気持ちになっていって、セリフも色々な解釈ができるシンプルなものにしたいと考えるようになりましたし、今後もそうしていきたいですね。


ただ僕のそうした演出って、役者さんによってはイライラしてしまうこともあるかと思うんです(苦笑)。そこは僕の課題でもありますが、太賀くんは僕のやりたい演出を100%理解して、ぶつかってきてくれた。本当に幸せな環境でしたね。



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