シリアスなシーンでも、色彩表現を諦めたくない
Q:『ジョゼと虎と魚たち』を拝見して、色彩感覚はもちろん、手描き風の表現や写実的な風景描写等々、バリエーション豊富な映像に感銘を受けました。この感性は、どうやって培っていったのでしょう?
タムラ:アニメ業界でやっていくうちに培っていった部分はありますが、もとから華やかな色がある世界観が好きではありましたね。
今回の『ジョゼ』を観ていただいて、そう感じてもらえたならうれしい限りですが、シリアスな要素のある作品に暗い色を使って表現するだけではちょっとつまらないかなと感じていて。豊かな色があって初めて、そのギャップが生きるかなとは思っているんです。
「鮮やかな色を使いつつも、幅広い感情の表現はできるのではないか?」というのは、自分の中で1つのテーマかもしれません。業界に入って、「華やかな色が好きだな」と思いながら仕事しているうちに、「暗いシーンでも色を諦めない」と頑張るようになりました。
©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project
Q:監督ご自身の信条でもあったのですね。今お話しいただいた“ギャップ”にも通じるかと思いますが、本作のコンセプトのひとつに「清濁併せ持つ」があったと伺いました。
タムラ:そうですね。完璧な人たちの作品を観ても共感しづらいかな、と思っていました。例えばジョゼにはワガママな部分がありますが、対する恒夫を聖人君子に描いてワガママを受け止めてしまっては観る方の気持ちが乗らないでしょうし、登場人物それぞれに、僕たちと同じようにエゴがあるんです。1人ひとりの様々な側面を詰め込めると、より魅力が出るんじゃないかなと思っていました。
実写もそうですが、片付いていない部屋も光の当て方できれいに見えるじゃないですか。あの考え方に近い部分はありますね。目線は優しく、美しく描くけれど、実際は多分気持ちは荒れている。その微妙なニュアンスが伝わればいいなとは、考えていました。
Q:キャラクターの表情だけではなく、画面全体で心情を表すようなアプローチですね。
タムラ:そうですね。そもそもモノローグを使わないと決めていたので、その代わりに様々な手立てを使う必要があったんです。
光や色であったり、芝居や音楽、声のトーンであったり……。細かい情報を積み重ねることで、「この登場人物は内面は話さないけれど、恐らくこういう気持ちになっているんじゃないか」と、お客さんが推測できる。その“手掛かり”をちゃんと整理して提示してあげられるかどうかが、この作品の肝だったと思います。