1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『アジアの天使』石井裕也監督 映画の真実は痛み(pain)にある【Director’s Interview Vol.124】
『アジアの天使』石井裕也監督 映画の真実は痛み(pain)にある【Director’s Interview Vol.124】

『アジアの天使』石井裕也監督 映画の真実は痛み(pain)にある【Director’s Interview Vol.124】

PAGES


映画の真実は痛み(pain)にある



Q:今回は、日韓関係という社会性を帯びたメッセージが色濃く出た作品となっていますが、映画という媒体で社会性を伝える意義について、どうお考えですか?


石井:社会性を特に意識しているわけではなく、日本と韓国で共作をすれば、製作陣がどういう態度で映画を作ったとしても、そこが殊更フォーカスされるのはもう間違いないんですよね。例えば、これがポーランドとの共作だったらそんな話にはならないのに、韓国だとなってしまう。韓国という国に対する引っ掛かりみたいなものが、確実に存在していることの証明ですね。


もしかすると、NiziUやK-POPが大好きな若い子たちは、そういう心の引っ掛かりみたいなものがまるで無いのかもしれませんが、そうじゃない人たちの中には確実にそれがありますよね。サッカーの試合をやれば「負けられない戦いがある」とか、そういう扇動みたいなものは間違いなく存在するので、そこから逃げられないという覚悟はありました。逃げたら、やっぱりうそになる。


Q:では、そういった社会性は意図して入れたというよりも、必然的に入ってきたと。


石井:まさにそうですね。今回、韓国でやったからこそ気づいたのは、お互いの心の中にある痛みや傷みたいなことに、“思いを馳せる”ことの大切さです。相手の人が何を考えているのかを想像する。そのことがすごく重要だと思ったんです。



『アジアの天使』(c) 2021 The Asian Angel Film Partners


友人のパク・ジョンボムとよく話したのは、映画の真実は、痛み(pain)にこそあるんだということ。だから、痛みを共有することでつながっていくドラマを作れると思ったのは、韓国で撮ることを決めたからなんです。そしてそれは、割と新しい形のドラマなんだと。


Q:パクさんとの石井監督の関係性は、この映画にかなり反映されているんでしょうね。


石井:ほとんどだと思います。逆に言うと、僕はそこ以外の韓国をあんまり知らないんですよね。この映画のプロデューサーをパクさんがやるって決めたとき、彼がまず言ったのは、「たとえお前をめちゃくちゃ苦しめたとしても、おまえの最高傑作を作るためだと思って我慢してくれ」と。まあ、ほとんど脅しなんですけど(笑)。でもそれで、むしろもっと仲良くなったと思いますよ。



『アジアの天使』を今すぐ予約する↓






脚本・監督:石井裕也

1983年生まれ、埼玉県出身。大阪芸術大学の卒業制作『剥き出しにっぽん』(05)でPFFアワードグランプリを受賞。24歳でアジア・フィルム・アワード第1回エドワード・ヤン記念アジア新人監督大賞を受賞。ロッテルダム国際映画祭や香港国際映画祭では自主映画4本の特集上映が組まれ大きな注目を集めた。商業映画デビューとなった『川の底からこんにちは』(10)がベルリン国際映画祭に正式招待され、モントリオール・ファンタジア映画祭で最優秀作品賞、ブルーリボン監督賞を史上最年少で受賞した。2013年の『舟を編む』では第37回日本アカデミー賞にて、最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞、また米アカデミー賞の外国語映画賞の日本代表に史上最年少で選出される。2014年、『バンクーバーの朝日』(14)では第33回バンクーバー国際映画祭にて観客賞を受賞した。2017年には、詩人・最果タヒの詩集から物語を生み出し、映画化した『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』を発表し、第67回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品される。その後、第9回TAMA映画賞にて最優秀作品賞の受賞を皮切りに、第39回ヨコハマ映画祭、第32回高崎映画祭、第30回日刊スポーツ映画大賞など多くの映画賞で作品賞や監督賞を受賞し、第91回キネマ旬報ベストテンでは、日本映画ベスト・テン第1位を獲得するなど国内の映画賞を席巻した。また、第12回アジア・フィルム・アワードで監督賞を受賞するなど国外でも高い評価を得た。近年の『生きちゃった』(20)、『茜色に焼かれる』(5月21日公開)、本作『アジアの天使』の3作品は、現在の社会を映し出しつつ、<夫婦、母子、家族>といった言葉では説明しきれない人と人の繋がりの深さを突き詰め、自身にとって原点回帰であり新境地となる作品となっている。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。




『アジアの天使』

2021年7月2日(金)テアトル新宿ほか全国公開

配給・宣伝:クロックワークス

(c) 2021 The Asian Angel Film Partners

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『アジアの天使』石井裕也監督 映画の真実は痛み(pain)にある【Director’s Interview Vol.124】