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『アジアの天使』石井裕也監督 映画の真実は痛み(pain)にある【Director’s Interview Vol.124】

『アジアの天使』石井裕也監督 映画の真実は痛み(pain)にある【Director’s Interview Vol.124】

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映画祭で知り合ったという、石井裕也監督と韓国のパク・ジョンボム監督。二人は意気投合し、これまで友情を育んできた。そしてそれは、国を超えた新しい家族の形を見せてくれる、傑作ロード・ムービー『アジアの天使』を生み出すこととなる。


95%以上のスタッフ・キャストが韓国チームという中で、そのポテンシャルを最大限に引き出した石井監督は、どのようにこの映画と向き合ってきたのか。石井監督に話を伺った。


Index


忖度しない難しさ



Q:今なぜ韓国で映画を撮ろうと思ったのでしょうか?


石井:元々韓国で映画を撮る話はあったのですが、それ以前に、今回プロデューサーをやってくれたパク・ジョンボムという友人の存在がすごく大きかったですね。映画ってどこでも撮れるわけではなく、彼との友情・関係性があったからこそ、「ああ、この国で映画が撮れるな」と確信できたんです。


Q:途中、韓国側の製作陣が降板して企画が頓挫しかかったそうですが、要因として当時の日韓関係は大きかったのでしょうか? 


石井:めちゃくちゃ大きかったですよ。企画を進めていた2019年当時は、徴用工問題やGSOMIAという軍事協定の破棄の可能性が出ていた頃で、日韓関係は最悪の状態でした。それが原因で、出演が決まっていた韓国の俳優が降板になったりと、目に見える形でどんどん問題が出てきていましたね。


Q:映画のようなエンターテインメント業界にも影響は出ていたのですね。 


石井:個人同士の関係性は全く問題ないのですが、仕事としてオフィシャルになる事柄は、かなり神経質になっていました。今回の映画への出資や韓国人俳優の出演は、どうしたってネットでの批判の対象となってしまう。韓国では「指殺人(SNSでのネガティブな書き込みで自殺に追い込むこと)」がすごく問題になっていて、それを恐れている人は確かに多かったという印象があります。



『アジアの天使』(c) 2021 The Asian Angel Film Partners


Q:映画の中では、韓国人と日本人のまさに今の関係が、問題点も含めて積極的に描かれていました。実はこれまで、日本映画の中ではあまり描かれてこなかった点かと思いましたが、そこを取り上げた理由は?


石井:通常の合作映画は、両国にとって都合の悪い表現を、どんどん取り除いていくはずなんです。つまり、お互いを忖度し合う内容となってしまい、不本意な形での最大公約数にしかならない。相手が嫌がることを避けていくと、すごく言葉は悪いですが、自ずと毒にも薬にもならない合作映画が出来上がる。今回はそういう落とし穴にはまらないように、企画を進めました。


Q:企画段階では、スタッフ間で喧々諤々あったと聞きましたが、今お話しされたようにお互い忖度無しで進めていたのでしょうか?


石井:そうですね。例えば食事のシーンでいうと、僕は韓国人の咀嚼音がすごく好きなんですよ。ものすごくいい音がする。ごはんをかっ食らってる感じがして、本当にうまそうですよね。それで、みんなで音を立てて食べるシーンをやりたくて、あくまで好意的に、それを脚本に書いたんです。でもそれが字面になると、「韓国人をマナーが悪いかのように描くのはやめてくれ」と、違う意味で捉えられたりする。でも、これを素敵なシーンとして描きたいわけですから、「はい、分かりました」と言って易々と取り下げるわけにはいきません。こういった問題をひとつひとつ真摯に話し合ってクリアにしていきました。


Q:確かに難しい問題ですね。彼らにとっては音を出して食べるのは普通のことだから、あえてそこにフォーカスすると、何かしら意図を感じてしまいますよね。彼らからすると、ごはんを食べる時の音なんて、わざわざ取り上げることじゃないだろ。って思っちゃいますよね。


石井:そうそう、そうなんです。




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