「新しいものを見られる」と思えるから、皆が能動的になる
Q:『名もなき一篇・アンナ』の撮影現場にお邪魔した際、スタッフ・キャストの皆さんが能動的かつ有機的に動いていたのがとても印象的でした。ものづくりへのためらいのなさを観られて、僕自身勇気をもらえたのですが、藤井監督はどう現場をマネジメントしているのでしょうか。
藤井:背中を見せるだけですね。監督として僕が作品にかける想いを言葉にして伝えるのではなく、ただただ一生懸命やる。僕は、面白い作品を作るためにはそれぞれのスタッフ・キャストが「自分がこの作品を面白くしてやるぞ」と感じていなければならないと思います。
ただ、一つあるとしたら「藤井組は無茶をする」がみんなの中にあるのかもしれないですね(笑)。ここに参加することで何か新しいものを見られる、吸収できるものがあるはずと感じてくれているから、能動的になる。計算でやってしまうと多分そうはならないから、自然発生的なものかもしれません。定石を覆そうとするスタッフたちと最高なものを作るのは、藤井組でずっとやり続けていることではあります。
Q:なるほど、蓄積も大きいのですね。
藤井:第1回目の緊急事態宣言による外出自粛以降は、僕たちは今日までずっと休まずに撮り続けているんです。それがもう一つの答えかもしれませんね。撮り続けることで生まれてくるチームワークなんじゃないかなと思います。
『DIVOC-12』© 2021 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.
Q:シーンの準備中に、藤井監督が皆さんの間を縫って対話をしている姿が印象的でした。おひとりで考え込んだり、一部のスタッフとだけ会話する監督もいらっしゃいますが、藤井さんはとにかく皆さんとの距離が近い。その壁を作らない姿勢が、藤井組のフラットな空気感を作っているのではないでしょうか。
藤井:改めて言葉にされると新鮮で恥ずかしいですね……(照笑)。でもおっしゃる通り、コミュニケーションは大事にしています。「机上の空論」とはよく言ったもので、じっと座っていても生きたアイデアは浮かばない。動くことで、生まれてくるんですよね。そして、その場のみんながどんな表情をしているのかが現場の雰囲気を作っていく。
だから、「コミュニケーションを意識している」というとちょっと違うかもしれませんね。僕自身に、仕事をしている感覚がないから。友だちと遊んでいる意識でやっているから、自然とみんなのところに話をしに行くんだと思います。
Q:これまで、何人かの監督の現場にお邪魔してきましたが、藤井監督は断トツで話しかけやすいと感じました。個人的に、それはすごく大事なことだと思います。スタッフもキャストも、監督に聞きやすいと化学反応が生まれやすいでしょうし。とても居心地が良い空間でした。
藤井:それはすごく嬉しい言葉です。流星なんて、気になることがあったらすぐ来ますからね(笑)。いまお話しいただいたところも含めて、自分の中でようやくものづくりのやり方が確立出来てきた気がします。