バックショットは、絶妙な“余白”をもたらしてくれる
Q:『名もなき一篇・アンナ』の中で、暗転するシーンがありますが、編集で行うのではなく、現場で演技・照明・カメラが連動していたのが感動的でした。横浜流星さんとロン・モンロウさんの芝居に合わせて藤井監督が合図を送るとカメラが近づいていき、照明も落ちていく。これぞまさに“連動”だと感じました。
藤井:あれは照明部や撮影部との打ち合わせの中で生まれたものなのですが、あの場で1個1個照明が消えていくことに意味があるんですよね。あとから映像的にフェードをかけるのとは、ルールが違う。だから「こっち(編集)ではなく、照明で表現したい」と伝えました。
Q:そうした一つひとつのアイデアが、作品全体の世界観を形成していると思います。バックショットについては、いかがでしょう。藤井監督を象徴するエッセンスかと思いますが、こだわりや想いをお聞きしたいです。
藤井:バックショットは、人物が見ている景色を追体験するものでもありますよね。ただ、全ては見られない。仮に完全な主観映像にしてしまうと、それもまた情報過多になり過ぎてしまう。バックショットは、僕にとってちょうどいい“余白”なんです。言葉で語ることなく、映像で見せすぎない――。そう捉えていますね。
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Q:もうひとつ、ハイテンポで映像をつないでいくことで感情のうねり、エモさを生み出すのも藤井監督作品ならではかと思います。『名もなき一篇・アンナ』でも、音楽との連動含めて泣かされました。編集の古川達馬さんとのコラボレーションでもありますが、ここに関してはいかがでしょう?
藤井:これはもう、古川のセンスだと思います。ただ、とにかく素材はたくさん撮っておいて、かつ現場で思いついたら「こういうつなぎを考えたんだけど、どうかな?」は共有しますね。それを古川が面白いと思ったら取り入れてくれるし、任せています。
ただ今回は1つ挑戦を行っていて、大間々昂さんに脚本の段階で音楽を作ってもらっているんですよ。『名もなき一篇・アンナ』では、10分間ずっと音楽が流れていますよね。「今回は環境音も、音楽で魅せたいんだ」と大間々さんに相談して「やりましょう!」と言ってくれて、こうなりました。音楽と編集を同時並行ではめていく作業は大変でしたが、そこも面白い実験ができました。