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『そして、バトンは渡された』前田哲監督インタビュー 自分の想像を超えてくるから映画は面白い【Director’s Interview Vol.157】

『そして、バトンは渡された』前田哲監督インタビュー 自分の想像を超えてくるから映画は面白い【Director’s Interview Vol.157】

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20年経てわかってきた相米慎二の言葉



Q:前田監督のデビュー作は『ポッキー坂恋物語 かわいいひと』(98)というオムニバス作品ですが、その総監督は相米慎二さんでした。今年は相米さん没後20年ということで、何か相米さんから教えられたことや思い出があれば教えてください。

 

前田:実は僕は、相米さんには助監督としてついたことがないんです。『お引越し』(93)など、何度かつくチャンスはあったのですが結局逃してしまった。『ポッキー坂恋物語〜』はオムニバス作品だったので、他には村本天志さんや冨樫森さんが監督をされていて、彼らは皆、相米さんの助監督出身なんです。僕は、たまたま制作会社の推薦みたいな感じで参加できた。だから、相米さんのお弟子さんの中では一番下っ端ですね。


『ポッキー坂恋物語〜』では、相米さんはプロデューサー的な立ち位置で、脚本や編集にも携わっていました。完成試写で、数々の新人監督を生み出した映画プロデューサーが僕の作品を褒めてくれたのですが、その瞬間、「哲、今のは褒め言葉じゃないぞ」と相米さんが言うんです。「映画を器用に作るな。小さくまとめようとするな」と。


僕は助監督出身だから現場をスムーズにまわそうという意識が頭にあって、どうしてもまとめようとするんです。現場経験も多いから色々と器用に物事を進めてしまう。相米さんが言うんです。「それじゃ一人の頭で考えただけだろ。スタッフ50人いたら、50個の頭を使えるんだぞ」と。自分で想像できるものを作るとそこだけで終わってしまう。自分の想像を超えるものが入ってくるからこそ、驚きがあるということです。それは観客も同じで、「えっ、こういう展開!?」「えっ、ここでこんな表情をするの!」と、自分の想像を超えることをどんどん入れていけるから映画は面白い。



『そして、バトンは渡された』©2021映画「そして、バトンは渡された」製作委員会


例えば、監督の僕が撮りたい画と全然違う画を撮ろうとするカメラマンもいるんです。でもそれがいい。今回の撮影は山本英夫さんで、『sWinGmaN』(00)という昔の作品からずっとお世話になっている方です。彼は僕が右を向いたら左を向くような人なんです。でも、それが面白いし、すごく助けられましたね。それは脚本の橋本さんやプロデューサーも同じです。音楽についてプロデューサーと認識が違って衝突もしました。シナリオ会議も喧々諤々でした。でも考えが違うことで多角的に検討できるし、新たなものが生まれることが多々ある。自分の枠にはめようとするのは簡単なんです。衝突するからこそ生まれてくるものがある。


俳優に関しても同じことが言えますね。僕は演出というのは“場”を提供することだと思っているんです。スタッフと監督が“場”をセッティングすれば、永野芽郁さんと田中圭さんが自然と親子になるわけですよ。そこで余計なことを言う必要はない。また、永野さんと岡田君が再会するシーンでは、永野さんが涙をこぼすのですが、僕は泣いてくれなんてひと言も言ってないんです。岡田君に、手の握り方と彼女を見つめる長さをリハーサルと本番で変えてもらったんです。それだけで涙が出て来た。永野さんには何も指示はしていない。それが演出だと思っています。


そうやって、自分の想像を超えるものをどう映画に入れていくか。それが相米さんに最初に言われたことですね。20年くらい遅れて、やっと今頃分かってきたのかもしれません。


Q:この映画がどう作られたのか? 今お話しいただいたのは、まさにその本質的な部分ですね。


前田:この作品、相米さんに観てもらいたかったですね。器用に作ってはいけないけど、精緻に作らないといけないときもある。小さくまとめちゃいけないんだろうけど、大きくはまとめていかないといけない。禅問答みたいですね。



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監督:前田哲

大阪府出身。撮影所で大道具のバイトから美術助手を経て、フリーの助監督となり、伊丹十三、滝田洋二郎、崔洋一、阪本順治、松岡錠司、周防正行らの監督作品に携わる。1998年相米慎二監督のもと、オムニバス映画『ポッキー坂恋物語・かわいいひと』エピソード3で劇場映画監督デビュー。主な監督作品は『パコダテ人』(02)、『陽気なギャングが地球を回す』(06)、『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』(07)、『ブタがいた教室』(08)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)、『老後の資金がありません 』(21)などがある。 



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




映画『そして、バトンは渡された』あらすじ

4回苗字が変わっても前向きに生きる優子(永野芽郁)と義理の父森宮さん(田中圭)。そして、シングルマザーの梨花(石原さとみ)と義理の娘・みぃたん(稲垣来泉)。ある日、優子の元に届いた母からの手紙をきっかけに、2つの家族が紐解かれていくー。優子が初めて家族の《命をかけた嘘》を知り、想像を超える愛に気付く物語。映画のラスト、驚きと感動であなたの幸せな涙があふれ出す。


10.29(金)ロードショー

配給:ワーナー・ブラザース映画

©2021映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

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