“今”の渋谷を切り撮ったロケーション
Q:東京の切り撮り方が抜群にカッコよく、CMやMVでの経験がいかんなく発揮されているように感じました。こだわりのカットを取るためのロケーション撮影はどのように行われたのでしょうか?
丸山:CMやMVのときは、街に出てノーライトでパパッと撮っちゃうようなことをよくやっていて、スタジオよりもロケ撮影の方が多かったんです。今回の映画では、単純にそれをアップデートした感覚でした。また、2021年の感覚を切り取りたかったので、渋谷を描くときもスクランブル交差点やセンター街などの記号的な場所はあえて避けて、スクランブルスクエアや渋谷ストリームなど、これからのスタンダードになっていく新しい渋谷で集中して撮影しました。
撮影を担当した神戸千木さんは、岩井俊二監督とよく一緒にやっていて『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)や他の作品も撮っている超一流のカメラマンです。僕も彼とは10年来のつきあいで、これまでずっとCMやMVを一緒にやってきました。映像のトーンなどお互いの好みが分かる、気心知れる間柄ですね。
『スパゲティコード・ラブ』©『スパゲティコード・ラブ』製作委員会
Q:細かい話ですが、ナイトシーンで常に道路が濡れているのは感心しました。予算的には意図的に濡らすのは厳しいですよね。
丸山:正直言うと意図的に濡らしたかったのですが、実はあれは自然に濡れたものです。撮るときはみんなで「地面が濡れてる!」と喜んでましたね。
Q:MVの「ラビリンス」もそうですが、夜の明かりが地面に反射しているのは、純粋に綺麗だし、丸山監督が作り出す世界観の一つになっている気がします。
丸山:「ラビリンス」のときは散水車で水を撒いて、しかも撮影時に雨が降ってきて本当にいい感じでした。今回は梅雨明け前から撮影をはじめたのですが、ちょうどジメッとした空気感で撮れて、梅雨明け後の晴れた状態では、自転車で東京を駆るシーンやラストの清々しい感じの画が撮れました。桜(xiangyu)と圭(青木柚)の二人が朝の屋上にいるシーンも「青空がいいな」と思った時に晴れてくれたりして、天候もかなり後押ししてくれましたね。
Q:予告編にも映っていますが、屋上の背景にあるビル群はすごいですよね。東京にこんなところがあったんだと驚きました。
丸山:探しました(笑)。僕もすごく好きなカットです。あの一枚の画を見るだけでも、前向きな感情が伝えられていると思います。