廣木監督ならではの湿度と抜け感
Q:ヨシオとミホを演じる上で、それぞれの役柄をどのように捉えられましたか?
村上:ヨシオは本当に普通のおっさんですね。彼が興味を持ったのがたまたまSMだったというだけで、全然普通の人です。ただそれが、周りからはちょっと特殊に見えるだけ。
菜葉菜:ミホ役はすごく難しかったです。廣木監督に「男にとってミホは理想の女神なんだよ」と言われたのですが、私はちょっと疑問でした。ヨシオのことを男として好きなのかどうか、感情がすごく難しくて。でも「誰にでも股を開くわけじゃない」というセリフの通り、ミホだってヨシオを選んでいるわけで…。そこに彼女の意思はちゃんと存在しているので、男の単なる理想だけではないと思っていました。
ヨシオのことをどっぷり愛しているわけでもなく、実際にそんな描写も出てこない。脚本を読んだときは、ミホの気持ちも分からなくはないと思いましたが、私自身は嫉妬深いですし、ミホみたいな優しさは持てない。だからこそやっていて難しかったですね。
村上:映画の中では、そういった曖昧な感情をSMのムチでスポーティーにぶつける描写があります。そこで心情表現も出来つつユーモアバランスも保っている。やっぱりこれはSMで正解だったなって思いましたね。ムチにも意味があるんです。
菜葉菜:確かにそうかもしれないですね。嫌いなわけじゃないし好きだからそうしているわけで…。ミホとヨシオが二人で釣りをするシーンがあるのですが、そこはミホにとってすごく切ないシーンだと思っていたんです。それですごく切ない顔をして演じていると、何と廣木監督は引き画でしかも後ろ姿を撮っている! そうか、私の切ない顔は撮らないんだねって(笑)。
でも完成した作品を観ると、ミホの感情がすごくさわやかになっていて、重くなりすぎてなかった。なるほど、こういうことだったのかと。廣木監督が仕上げた世界を見てそう思いました。
『夕方のおともだち』(C)2021「夕方のおともだち」製作委員会
Q:SMとSEXの関係はあるものの、変に感傷的にならないヨシオとミホの関係性がこの物語を支えている。そこはまさに廣木監督の計算だったのですね。
村上:そこはそうですね。僕は今回13本目の廣木組でしかも初主演なんです。これまでの廣木組でもそうですが、自分が想像したところにカメラが入ったことは一度もないです。ただ経験は多いから、カットを割らないところは何となく想像がつく。監督が「ここワンカットで撮るから」って言うと「ああ、来た、来た」って感じですね。
廣木監督ならではの湿度と抜け感があって、その狭間に俳優を配置してとことん追い詰める。その図式は、まさに廣木監督が俳優キラーであるゆえんですね。廣木監督は俳優にモテるんですよ、特に女優さんに。キャパシティも広くて、濡れ場の撮影にしてもあれだけ毅然としている人は珍しいです。ケアもちゃんとしますしね。