山本直樹の伝説の漫画『夕方のおともだち』がついに映画化。同作はハードSMを題材にしながらも不思議な心地よさを持つ名作で、読むとまるで映画を観ているような感覚に陥ってしまう。そんな、漫画自体がすでに映画的な『夕方のおともだち』だが、今回の映画化を手掛けたのは廣木隆一監督。そして主人公のヨシダヨシオとミホ女王様を、村上淳と菜葉菜がそれぞれ演じる。
奴隷と女王様、客と店員、そして男と女、分かりやすくも曖昧な二人の関係性を、見事に体現する村上淳と菜葉菜。二人はどのようにして今回の役柄に挑んだのか? そして廣木監督から受けた演出とは? 二人に話を伺った。
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爽やかな読後感のSM
Q:企画自体は10年前から動いていたとのことですが、最初に話をもらったときの印象はいかがでしたか。
村上:僕は今48歳ですが、企画をいただいたのは38歳ぐらいのときで、年齢的にちょうどいい役だなと思いました。38歳って、どのポジションにも属さない中間管理職のような方が多いと思うのですが、どこにも属さない、つまりフワッとしたところに属している感じがいいなと思ったんです。
その後、企画が進まず時間が経ってくると、部長のような役職が付く年齢になってしまい、役に違和感を感じ始めてストップをかけたときもありました。でも結果的には、菜葉菜さんはじめ色んな方の強い思いもあり、何とか完成することができました。
菜葉菜:廣木監督の作品だったので、私はとにかく嬉しかったです。『ヴァイブレータ』(03)の寺島しのぶさんなど、廣木監督が描く女性に魅力を感じていたので、私もいつか廣木組の主演に立ちたいと思っていました。
原作も読ませていただき、最初はビジュアルが強烈でびっくりしましたが、読んだ後は印象が全然違って、すごくさわやかな感じがしました。SM描写は激しいけれど決してそれだけを描きたいわけではない。すごく素敵な作品だと思いました。その後、山本直樹さんにもお会いしたのですが、「ミホにビジュアルがそっくりだね」と言っていただき、確かに私は顔も体もミホに似ているなと。ミホ役は運命だと思って待ち続けました。
村上:山本さんの原作は、突っ込んだ描写もありますが、読み終わった後に爽快さみたいなものを感じますよね。「あれ? 何の話だったっけ」みたいな魔法がある。
菜葉菜:本当にそんな読後感でしたね。
『夕方のおともだち』(C)2021「夕方のおともだち」製作委員会
Q:村上さんは、撮影前は原作を読まずに脚本だけ読まれていたそうですね。
村上:これまでにも、原作がある映画に出演したことは多いですが、撮影前に原作を読んでアプローチしたことはないんです。だから今回もあえて読みませんでした。
Q:脚本の印象はいかがでしたか?
村上:さわやかな脚本だなと思いました。ちょうど当時で言うと、ロウ・イエの『スプリング・フィーバー』(09)みたいな印象がありましたね。たとえば純愛のような、ある一定のピュアを描くときには、それを貫き通すための弊害を起こす必要がある。そこに映画独特のドラマが生まれる。今回のSMという題材にも、コンプライアンスや一般常識という弊害が存在します。ここまで時代が変わってきた中でも、その関係性はあまり変わらない。だから10年前の脚本でも古いことはなく、逆に時間が経ってちょうど良くなったかもしれません。
僕は24歳のときに、廣木作品で『不貞の季節』(00)というSMをやっているんです。そのときに緊縛師の雪村春樹さんに色々と学ばせていただきました。巷でよく言われるロウソクやムチのようなSMではなく、亀甲縛りのシンメトリーの美しさなどを教えていただいたので、SM自体に抵抗はなかったですね。