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『夕方のおともだち』村上淳×菜葉菜 廣木監督ならではの湿度と抜け感、その狭間に配置される俳優たち【Actor’s Interview Vol.20】

『夕方のおともだち』村上淳×菜葉菜 廣木監督ならではの湿度と抜け感、その狭間に配置される俳優たち【Actor’s Interview Vol.20】

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廣木監督の演出術



Q:映画の撮影全体を通しては、ヨシオとミホの関係性はどのような感じだったのでしょうか?


村上:僕は、うやむやにして進めました。全体的にはロジカルに考えていますが、現場で湧き起こる感情や監督の演出、そして菜葉菜ちゃんが出すものを感じとって反射するようにしていました。


菜葉菜:私も同じようにうやむやにしていました。先程も触れましたが、ミホの感情は難しくて、ヨシオを男として好きになってしまうと、他が崩れてしまいそうな感じだったので、あえて分からないままがいいかなと。


村上:現場に入る前に二人ともそれぞれ考えていることはあったのですが、それは採用されませんでした。廣木監督って、一番適切な表現をすると“タヌキ”なので、何を考えているか分からないんです。その場で考えたことなのか、前から用意していたものなのか、決して現場で見せない。その辺は、いろんな方から聞いた相米慎二監督の演出にそっくりな気がしますね。


例えば、鮎川桃果さん演じる同僚がヨシオの家に来るシーン、ここも壮大な一連になっていたのですが、鮎川さんも緊張されていて撮影がうまくいかなかった。そこで監督が脚本に無い指示を出すんです。ハンドバッグに缶チューハイを仕込ませて、それを取り出して飲むという動作を付け足させた。するとそこから劇的に芝居が変わったんです。演者ってそういうことで変わるんですよね。


廣木監督はその缶チューハイを事前にスタッフに用意させてるわけです。そういう監督のレイヤーが果てしなくあって、そのキャパシティの広さのおかげで、演者は芝居に徹することができる。それは廣木組ならではじゃないですかね。



『夕方のおともだち』(C)2021「夕方のおともだち」製作委員会


菜葉菜:私も廣木監督からは色々と指示を受けました。「もうちょっと、ここでこうやってみて」ってよく言われたのですが、一方で村上さんは何も言われていなかった。多分村上さんが演じるヨシオは廣木監督の想像通りなんだけど、私が演じているミホは監督の想像するものじゃなかった。だから必然的に指示が増えたのかなと。


村上:それは多分違うんじゃないかな。監督なりの演出術があって、それを人によって変えているんだと思う。僕には「菜葉菜ちゃんにこう言ってもらうから、淳は2ミリずらしたとこに当ててよ。そうすると菜葉菜がこう返してくるから」って監督から指示がある。この「2ミリ」というのはポジションじゃなくて言葉のことなんだけど、そう言われて自分の次の動きが分かってくる。


菜葉菜:すごい…。そんな高度な意味があったとは。


村上:あとは、まず僕がどう出るか反応を見たかったんだと思います。だからテストの時に菜葉菜ちゃんにパターンを指示してたんじゃないかな。


ちなみに僕も昔はボコボコにされました。『L’amantラマン』(05)のときはテイク60とかやったから。極寒の中で大杉漣さんと田口トモロヲさんを待たせちゃって、その横で3時間ぐらい延々やってた。


Q:セリフの話で言うと、ほぼ漫画通りの内容にも関わらずとても自然でした。アドリブは無かったのでしょうか。


村上:無いですね。廣木監督はアドリブがあんまり好きじゃないんです。自分が出てなくても廣木組の作品は欠かさず観ていますが、多分アドリブはほとんど無いですね。「あ、今ちょっとアドリブ入れたな」って思ったのは、『娚の一生』(15)で豊川悦司さんと安藤サクラちゃんが薪を切っているときに、安藤サクラちゃんがゴニョゴニョって言うんです。あれぐらいですね。


菜葉菜:細かい(笑)。


村上:そう、細かいのよ。あれは多分、廣木さんが許したんだと思います。他のアドリブは許さないですね。一連で撮るときもアドリブは無しで脚本どおり。普通に話すと噛みそうになるんですけど、監督はそんなことは気にしない。逆にアドリブで接続詞とかを下手に変えてしまうと、それにつられて他のものも大きくずれてくる。そうすると映画的に破綻してくるんですよね。





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