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『余命10年』藤井道人監督 100年先も残る映像を撮るための「無茶」【Director’s Interview Vol.187】

『余命10年』藤井道人監督 100年先も残る映像を撮るための「無茶」【Director’s Interview Vol.187】

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“1秒のこだわり”を実現できるプロダクションが少ない



Q:観る側の“体験”でいうと、映像の中に四季があるということが非常に効いていると感じます。コロナ禍で失われた日常のことを思い出す方も多いでしょうし。1年かけて撮る、というのは企画の当初から決まっていたのでしょうか?


藤井:監督としてお引き受けする際の条件の一つがそれでした。「この作品は1年かけて撮りたいです」と伝えましたね。


Q:各所の連携が必要になってくるでしょうし、成立させるのは大変ですよね。


藤井:いやぁ、本当に(笑)。ただ、大変じゃないものにドキドキしないんですよね。自分たちとしてはこれまで見たことのない製作費で映画を撮らせてもらえることになって、そのときに撮影の今村圭佑と話したのは「500万で映画を撮っていたときと同じ気持ちでやろう」と。だから挑戦を詰め込んで大変な思いはしましたが(笑)、みんなにとって忘れられない映画になったと思います。



『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会


Q:例えば茉莉と和人(坂口健太郎)が仲を深めていく過程をフラッシュバック的に見せていますが、海・花見・花火・初詣……数秒のためにここまでやるのか!と思いました。


藤井:全部撮ってるんだぞ!というね(笑)。10年というものをどう表現しようかと思ったときに色々なアプローチがありますが、僕たちは総合力で売っているチーム。映像では今村がいて、ヘアメイクの橋本申二さんが自由自在に動いてくれるので、「この1分半にどれだけ懸けてるの!?」ということをトライできました。お花見や花火など、コロナ禍に入って自分が見られなくなったものはなるべく入れたかったですね。


Q:3日で日本を横断して撮影した『名もなき一篇・アンナ』の際もそうでしたが、脚本上だと一言・二言のそのト書きを実現するところに、藤井組の信念を感じます。同時に、非常に乱暴な感覚ですがこの点描演出――特に“ありえたかもしれない未来”の魅せ方は、グザヴィエ・ドラン監督しかり海外作品の“におい”に近いなと。


藤井:非常に明確なのは、この1秒のためにこのシチュエーションを用意してくれるプロダクションが国内になかなかないんですよ。僕もよく経験するのですが、こちらは必要だと思うから脚本に入れていても「スケジュールが……」「予算が……」とプリプロダクション段階で切り落とされてしまうんです。そう考えると、クリエイターたちの頭の中にはあっても、実現できないパターンが多いのかもしれません。


今回も、撮影日数自体は決して多くはないんです。ただ、みんなが「ここは大事」ということをわかってくれたから、実現できた。隅田川の花火大会のシーンなんて、実際やっているものを撮りに行くわけじゃないからめちゃくちゃ大変でした。このためだけに船を出してくれたり、通行止めをしてくださったり……。1秒を作るために、みんなが努力してくれた結果ですね。同時に、「画面にこういうものが映っていた方がいい」を実証する機会にも出来たらと思っています。




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