© ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND
『アンネ・フランクと旅する日記』アリ・フォルマン監督 映画を観た子供たちが動き出してくれたら…【Director’s Interview Vol.191】
必然だった現代の視点
Q:ホロコーストと現代の視点をクロスさせたことにより、現代の新たな問題や過去の愚かさに気づかされます。
フォルマン:アンネの物語はこれまで繰り返し伝えられてきて、もはやアイコンのようになってしまっています。それを現代に伝える上では何か新しい要素を加えないと、新鮮味がなく注目してもらえない。そういう意味でも現代の視点を入れることは必然でした。
また、アンネの物語がこれまで世の中に出して来たメッセージには、戦争や紛争で苦しむ子供達というテーマがあります。それは残念ながら、現在も進行している終わりのない問題です。アンネの物語を語る以上は、その問題に関してもしっかり描くべきだと思いました。
『アンネ・フランクと旅する日記』© ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND
Q:劇中では、アンネ・フランク博物館やアンネ・フランク劇場、アンネ・フランク橋など、アンネ・フランクが偶像化されてきていることに疑問が呈されます。そういった実感がフォルマン監督自身にあったのでしょうか。
フォルマン:そうですね。観光名所になっているアンネ・フランクの家は、多くの観光客に入ってもらうため敢えて家具を置いていない。また、いつも満員のため入場するにも3時間ほど待たねばならず、入場後に一通り家の中を回った後はそのままお土産コーナーに誘導される。それでアンネ・フランクの何が分かるのでしょう。同じ時間を費やすのであれば、実際の彼女の日記を読んだ方がより理解できるのではないでしょうか。
Q:ポピュリズムや右傾化が広まりつつある今の世界では、アンネの言葉「人間の本質は善である」という言葉に、改めて気づかされることはとても多いです。
フォルマン:彼女が言ったことは本質をついていて、時間や場所、人種や宗教など、すべてを超えて響く言葉になっていますよね。
今の世界では、頭が良くて優秀な人たちが最新の破壊兵器を開発していますが、一体何の意味があるのでしょうか。戦争の愚かさについて結局人間は何も理解していない。その愚かさに気づくためにもこの言葉を広める必要がある。それがアンネとフランク一家の願いだと思います。