クーデターの現場、撃たれるカメラマン
上映が始まっていきなり度肝を抜かれた。大統領府が爆撃される映像。デモ隊が蹴散らされる映像。最初にガツンと強烈なのを見せておいて、時系列は1973年の議会選挙に左派が勝利した時点に戻される。どういう風にしてトップシーンの大混乱が巻き起こったのか、という構成だ。チリ政治史に不案内な僕も映像の物語る「どうしてこうなった?」につきあう形で、70年代の空気を胸いっぱいに吸い込んでいく。
ざっくりまとめると70年代のチリは社会主義政権の樹立とその揺り返しだ。民衆は腐敗一掃を目指し、アジェンデ大統領を支持した。が、既得権益を握る富裕層は「一掃」されてはたまらない。軍部を動員した揺り返しが始まる。冷戦下だからアメリカも介入し、右派に助力する。第一部「ブルジョワジーの叛乱」に街頭インタビューのシーンが出てくる。持つ者と持たざる者にチリ人が分断されている。あぁ、こりゃもう揉めるなぁと思う。
『チリの闘い』(c)Photofest / Getty Images
第一部はタイトル通り、持つ者の叛乱だ。選挙に敗れた右派は闘争方針を変更、社会主義政権に打撃を与えるべく、デモやストライキを扇動し、軍部によるクーデターまで企てる。カメラは常にその現場にいる。あまりに現場にいるせいでカメラマンが撃たれるくらいだ。見てる僕らは「うわ、ここまでするのか!」「ここまで大ごとになったのか!」といちいち口ポカーンだ。カメラは問う。「じゃ、どうしたらいい?」「 これをどうしたらいい?」
第一部はクーデター未遂で終わるが、第二部「クーデター」ではついに権力掌握が成り、アジェンデ政権が打倒される。左派は路線をめぐり分裂し、弱体化する。アジェンデ大統領はラジオを通じ最後の演説をし、その後、真相は不明ながらどうやら自殺したらしい。構図が面白いのだ。これは政府がクーデターによって転覆される「敗北」のドキュメンタリーなのだが、政府とともに民衆も「敗北」する。何度も何度も「アジェンデを守れ」をスローガンにしたデモが組織され、「政府&民衆vs富裕層&軍部」の図式が強調される。何か日本で生まれ育った感覚だと政治闘争は「政府vs民衆」の図式だけど、なるほどこういうことだってあるよなぁ。