コラムニスト・えのきどいちろうが映画にまつわるあれこれを隔週でお届け。その名も「えのきどいちろうの映画あかさたな」。今回は記念すべき第一回。それではお楽しみください!
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見るのに二の足を踏んだ理由
下高井戸シネマが掛けてくれるというので『チリの闘い』(75〜78)を見に行った。1970年代、チリの激動を追った伝説的なドキュメンタリー映画だ。時代的には左派のアジェンデ政権が倒され、ピノチェト軍事政権が誕生する状況だ。いやぁ、熱い映画だったなぁ。別に僕なんか「意識低い系」もいいところで、チリの政治史にも詳しくないのだが、グイグイ引き込まれた。
『チリの闘い』は以前、ユーロスペースで上映されたはずだ。おお、グスマンの『チリの闘い』かと思ったけど、何かこう二の足を踏んで先延ばしにしてるうちに上映が終わってしまった。二の足、先延ばしの理由はシンプルに説明できる。「長い」のだ。3部構成で4時間半くらいある。これは覚悟がいりますよ。仕事も片づけて万全の態勢でのぞまなきゃならない。もう、この日は『チリの闘い』に全振り。他は何もしない。
『チリの闘い』予告
学生時代はそういう映画の見方ができたんだけどなぁと思う。僕の若い頃は小林正樹監督の『人間の條件』(59〜61:6部構成で9時間31分)オールナイト上映みたいなやつが定期的に組まれていた。ほとんど体力測定だ。『人間の條件』オールナイト上映は何度か挑んだんだけど、いつも寝落ちした。だから序盤は知ってるけど、どんな映画なのか全体像を知らない。知らないけど、そういう高校の同級生みたいな映画があってもいいじゃないかと思う。
『チリの闘い』はそんな手ざわりを想起させた。「長い」から見逃したけど、見ないわけじゃない。まぁ、4時間半なら原一男監督作品を考えればそう身構えるほどでもない。下高井戸シネマは都内の代表的な名画座のひとつ。座席のネット予約はなくて、ちょっと早めに行って料金と引き換えに整理番号をもらうシステム。僕は3部構成の整理番号「1」「1」「1」をもらった(完全入れ替え制だから3本の映画を見るのと同じスタイル)。気合いが入って、つい映画館に早く来すぎたのだ。