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『流浪の月』ホン・ギョンピョ撮影監督 初の日本映画でカタルシスを感じた瞬間【Director’s Interview Vol.205】

『流浪の月』ホン・ギョンピョ撮影監督 初の日本映画でカタルシスを感じた瞬間【Director’s Interview Vol.205】

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シルエットが伝える撮影監督の力量



Q:作品の終盤には、撮影監督の力量が試される重要なシーンが用意されました。


ギョンピョ:クライマックスのシーンは、とにかく印象を残す必要があるので、悩みながら苦心の末に作り上げました。リハーサルも何度も重ねた結果、当初は夜に撮ると想定していたところを、日中に変更することになったのです。難しいシーンでもあり、日中の方が時間の制約もありますが、俳優の肉体を見せるうえでは有効だと感じました。少しぼやけたような淡い光が漂うイメージが、そのシーンにぴったりだという判断です。窓を背景にした文のシルエットが撮りたくて、そのための適切な時刻を模索しました。そんな風に監督と綿密なコミュニケーションをとりながら、非常に緊張感も求められたので、俳優の集中力も高まり、ものすごい演技を見ることができたのです。我ながら素晴らしいシーンが完成したと思います。


Q:そのシルエットに関しては、『バーニング』や『母なる証明』(09)でも効果的でした。シルエットが作品のテーマも語っており、あなたの得意技という気がします。


ギョンピョ:とくに意識したことはありませんが、そのように言われると、たしかにそうかもしれないですね。なぜシルエットを使ったのか、毎回経緯は違います。必ずしも私が提案したわけではありません。今回の『流浪の月』のクライマックスを考えたとき、肉体の美しさ、および醜さを複合的に表現したかった。そのために差し込む光など、さまざまな状況を絶妙に一致させることに尽力しました。このように、作品ごとにシルエットを決定し、それを実現するプロセスがあるのです。


『流浪の月』(c)2022「流浪の月」製作委員会


Q:『流浪の月』で撮影監督としての喜びを感じたのは、どんなシーンですか?


ギョンピョ:撮りながら喜びを感じる瞬間は何度もありました。冒頭のシーンで、少女時代の更紗(誘拐事件の被害者。本作のヒロイン)が橋の上を歩いているとき、急に風が吹き、そこに光が差し込んできますが、あれはまったく予期していない自然現象でした。その“絵”が撮れたことで、私は作品が豊かになると確信し、とてもうれしくなったのを覚えています。


湖で撮ったシーンも、風が吹いたり、雨が降ったりする風景の変化を収められました。桟橋に立つ俳優をカメラを通して見ながら、背中がゾクゾクしたものです。もちろん先ほど話したクライマックスもそうです。監督とどうすれば悲しく美しく表現できるかずっと悩みぬいていたのに、1回目のテイクでうまくいきました。カットの声が聞こえた瞬間、カメラを覗きこみながら「すごいものが撮れた」という手応えを感じ、しばらく余韻に浸ったのです。これらの瞬間こそ、撮影監督としてのカタルシスであり、喜びですね。


Q:では、過去の作品で大きな喜びを感じた瞬間は?


ギョンピョ:『バーニング』で、ヒロインのヘミが夕景をバックにダンスを踊るシーンも強烈なカタルシスを感じました。あの時、イ・チャンドン監督も同じ高揚感を味わっていたと思います。同じくダンスですが、『母なる証明』のエンディングを撮った際も大きな喜びに溢れました。「これだ」という映像が撮れると、現場でものすごいエネルギーを感じるのです。そしてそのエネルギーが、私が生きていくうえでの源になるのです。





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