©Story of Film Ltd 2020
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』マーク・カズンズ監督 子供の時と同じ気持ちで映画を観ること【Director’s Interview Vol.212】
2011年、イギリスで製作されたドキュメンタリー「ストーリー・オブ・フィルム」は、19世紀末から2000年代に至る映画120年の歴史を、全15章/全編900分以上という構成でたどったTVシリーズ。膨大な数の映画の印象的なシーンを引用したこのドキュメンタリーは、映画史を新しい視点で紐解こうとする試みに加え、ユニークな作品選びや編集のセンスも評判に。監督したのは、365日映画を観る男、マーク・カズンズ。彼がこれまで観た映画の数はなんと約16,000本! そんな彼が作るシリーズ最新作が『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』だ。
今作では、映画を取り巻く環境や表現手法が劇的に変わった2010~2021年の11年間にスポットをあて、劇中に登場する111本の映画はハリウッド・メジャー大作からアートハウス系、知られざる日本未公開作まで実に幅広く、取り上げるジャンル、テーマも多種多様だ。
マーク・カズンズ監督はどのようにしてこのドキュメンタリーを作り上げたのか? 日本映画も含めた映画愛溢れるインタビュー、お楽しみください。
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昔は映画に飢えていたのが、今は常に満腹
Q:今回の映画は2010年〜2021年にフォーカスが当たっています。映画の中でも触れられていますが、デジタルによる技術革新、動画配信の台頭、そしてコロナ禍での映画館の入場者数減と、映画界にとって激動の時代でした。監督自身はこの11年をどう捉えていますか?
カズンズ:様々な種類の映画が観られるようになったことが大きいですね。作り手がより多様になった。また、問題はありますが、技術革新によってどこからでも映画にアクセス出来るようになったことも大きい。この2つですね。作り手にとっても映画ファンにとっても、今はまさに黄金期と言えると思います。
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』©Story of Film Ltd 2020
Q:配信全盛のこの時代においてキュレーションの重要性をプレス資料に書かれていましたが、この映画がまさに素晴らしいキュレーションになっていると思いました。これだけの情報に埋もれて時間に支配されている現代人に対して、どのように映画の素晴らしさを共有していけば良いと思いますか?
カズンズ:以前はクラシック映画を観たいと思ったら、まずそれを探すことから始めなければなりませんでした。それが今ではワンクリックで観ることができる。かつては渇望するほど映画に飢えていたのが、今では常に満腹の状態です。例えば何か観ようと思っていても、いろいろ選択肢があり過ぎて、探しているうちに結局何も観ないなんてこともあったりします(笑)。
だから今の人たちには「案内」が必要だと思うんです。例えは良くないですが「ドラッグビデオ」のようなものです(笑)。「ちょっとコレやってみなよ、もしかしたらすごくイイものかもしれないよ⁉︎」という感じで、上物を試して貰おうということですね(笑)。
また、家で映画を観ることと映画館で映画を観ることは、根本的に全く違う体験です。映画館に行くということは、外出してチケットを購入し、上映中の2時間の間は身を捧げなければいけない。早送りもできないし、自分でコントロールすることができない。映画館というところは、我を忘れて自分を埋没させ、より大きなものに包まれることを提供してくれる場所なんです。