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『裸のムラ』五百旗頭幸男監督 三つの意外な視点が描き出すニッポンのムラ社会の本質【Director’s Interview Vol.248】

『裸のムラ』五百旗頭幸男監督 三つの意外な視点が描き出すニッポンのムラ社会の本質【Director’s Interview Vol.248】

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取材初日でムラ社会を実感



Q:そもそも、なぜ「日本のムラ社会」をテーマにしようと考えたのでしょうか。


五百旗頭:僕は2年前に富山のチューリップテレビから石川テレビに移籍したんですが、当時はコロナの第一波の最中で、入社2日目から取材に出ました。それで石川県庁に行くと、知事に対する職員の忖度が富山県以上にすごくて異様だったんです


Q:取材初日でいきなりそう感じたんですね。


五百旗頭:肌で感じました。コロナで社会が危機に瀕している中、知事の会見に行くと、知事が4分くらい一方的にしゃべって記者からの質問を受けない。すると隣の部屋に行って、また同じことを読み上げて、それを県の職員たちが必死にメモをとる。マスコミも必死に追いかける。するとその会見もまた3分くらいで終わって、その場で囲みの会見が行われるんです。「最初の会見だけでいいやん!」と(笑)。コロナで緊張感が高まっている時に、パフォーマンス重視で中身のないことをやってしまう為政者と、それを取り巻く職員とマスコミという構図が滑稽に見えました。


県議会では富山でも寝ている議員はいましたが、石川では知事の答弁中に寝ている議員プラス、後ろの方にいるベテラン議員たちが周りと雑談しているんです。もう学級崩壊状態(笑)。カメラマンにそれを「撮ってください」と言ったら、「いや、こんなのいつものことだから」と言うわけです。それにまた違和感を覚えて、これは県政をウオッチしなければと思ったのが、そもそもの始まりです。



『裸のムラ』(C)石川テレビ放送


Q:ムスリムの松井さんに取材したきっかけはどんなものだったのでしょうか?


五百旗頭:ニュースの企画で「コロナで社会が混乱しているから、少数派のムスリムは何か困っていることがあるのでは?」という視点で取材したんです。するとムスリムの松井さんが「全く何も困っていません」と(笑)。むしろ世の中の関心が自分たちに向かず、攻撃や批判をされないからすごく居心地がいいと。「コロナが収束した後に、以前の状況に戻るのがむしろ怖い」とおっしゃっていた。僕にはその視点がなかったんです。さらに松井さんの妻のヒクマさんの言葉がすごく強くて、日本社会のおかしなところを端的に指摘する。これはムスリムを取材すれば、日本のムラ社会のおかしなところを描けるんじゃないかと思いました。


Q:編集でもユニークな演出をいくつもされていますが、特に印象的だったのは石川県の政界の歴史を、現代から逆にさかのぼっていくところです。普通とは逆の見せ方で面白かったし効果的だと思います。


五百旗頭:なぜあの構成にしたかというと、この作品において森喜朗さんは外せなかったからです。東京オリンピック組織委員会での女性蔑視発言がありましたが、あれは今の日本のムラ社会の象徴的な出来事でした。そんな人物が元総理大臣で、しかも石川県人。県知事の椅子をめぐる権力闘争の歴史をひも解きつつ、結局何も変わらないという永遠のループを描こうと思ったら、やはり森さんを絡めないといけない。だから歴史を遡らせてみせようと。遡って観ることで「あれ?これ時代が遡っているはずだけど、進んでいるようにも見える」という感覚が生まれて、同じことを繰り返している構造が際立つんです。


Q:森喜朗さんが日本のムラ社会を象徴する人なんだという事がよくわかりました。


五百旗頭:そうなんです。森さんは映画に沢山出てくるわけじゃないけど、すごく肝になる人です。


Q:しかもちょうど今、東京オリンピックの贈収賄事件が明るみになり、その点でもタイムリーですね。


五百旗頭:時代が作品に追いついてきたというか(笑)。


Q:まるで狙ったかのような。


五百旗頭:まったく狙っていないです(笑)。でも森さんの疑惑もそうですが、統一協会のことも含めて全て、『裸のムラ』で描いていることに通じます。結局、みんなが見て見ぬふりをして無批判に許してきた。「そんなものだろう」と言って流れに身を任せてきた結果が『裸のムラ』だし、統一協会やオリンピックの問題で起こったことは全てつながっていると思います。




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