役者たちが持ってる“凄み”
Q:のんさんをはじめ、役者の皆さんがすごかったです。特に「たまえ=のん」の役の同化が素晴らしく、彼女の魅力を再認識するだけではなく、本人の底知れない凄みすら感じました。実際にお仕事してみていかがでしたか?
北村:まさに凄みがあるから面白いんですよね。のんちゃんって、パッと見たら優しそうな可愛らしいだけの子に見えるかもしれないけど、凄みや怒り、反骨を抱えていて、ちゃんとした芯を持っている。たまえがカチンと来て皿を投げつけるシーンがあるのですが、あそこは自分にすごく似てるって本人が言ってました。僕も撮っていてそっくりだなって思いました。ああいうのを持ってる人なんですよ。「いやいや顔に出てるから(笑)納得してないだろ(笑)」というのがわかる人なんです。まだ若いのにいろんなことを経験して生きているから、その凄みが出てくるんでしょうね。でもこれは全員に言えますね。
『天間荘の三姉妹』©2022髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
大島優子ちゃんはAKBのときに仕事でご一緒したことがあって、その頃から僕は超大島推しなんですが、とにかく彼女がいると周りが皆ニコニコするんですよ。持って生まれた人気者オーラでしょうね。AKBでセンターを張ってドームの5万人の前に立っていたこともある。これだけたくさんいるアイドルの中でその頂点に君臨していたわけですから、そこにはやっぱり凄みがありますよね。卒業してからも女優さんとしてメキメキと力をつけて来ましたしね。
門脇麦ちゃんもそう。本人は努力している姿を全く見せなくて、いつも軽やかな感じなんです。だけど間違いなく裏では人一倍努力している。それはもう現場でわかるんです。彼女はイルカのトレーナー役で、イルカの上に立ってサーフィンするシーンもあった。「あんなの本当に素人に出来るのかな」と思ってたら、本番前日のテストで一発で決めたんです。軽やかにポーンと上がって本当にすごかった。翌日、何百人かのエキストラが来て「本番いきまーす」ってやったら、また一発で決める。そこに「頑張りました!大変でした!」っていうのは特に無いんですよ。三姉妹で三者三様の凄みがありましたね。
また今回は三田佳子さんにも出ていただきましたが、三田さんなんてもう60年以上トップランナーを張っている大女優。それはもう想像を絶する世界だと思います。撮影の折り返し地点の頃、疲労の限界に達していて、仙台から伊豆に移動する前に数日の休みがあり、東京に戻るときがあったんです。「撮影中にこんなにしんどいことってあんまり無いんだけどなぁ……」と思ったくらい心身ともに疲弊していた。そんなときにたまたま『昭和残俠伝 唐獅子牡丹』(66)のリバイバルが映画館でやっていて、観に行ったんです。するとスクリーンの中に高倉健さんと一緒に若き三田さんがいるわけです。俺は今こんなすごい方と映画を撮れてるんだ!と、そんな幸せからしたら、いろんな問題とかどうでもええわ!と、すごく元気になりました(笑)。やっぱり映画の力ってすごいなぁと。たまたま休みの日にその作品が映画館でやってたのもすごいんですけどね。
三田さんは昭和の大女優なんで、スタッフやみんなへの気配りがすごいんですよ。ご自分の休みの次の日にはお酒やビールなど、いろんな物をスタッフのために買って来てくれるんです。「監督はお酒を飲まないと聞いたので」と言って、色んな種類のカフェオレを山ほど買って来てくれました。役者のみなさんは本当に素晴らしかったですね。
『天間荘の三姉妹』©2022髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
Q:素晴らしい役者陣の中、柴咲コウさんだけは役柄的に立ち位置がちょっと違います。北村監督も少しお手伝いされたという、柴咲さんが監督した『巫.KANNAGI』(22)というショートフィルムを観た時にも同じことを感じたのですが、柴咲さんはスクリーンにいるだけで映画として成立させてしまうような力をもっていますよね。
北村:柴咲コウはのんちゃんとは対極にいますが、同じようにone and onlyな人。あんな人他にいないと思いますね。彼女とは普段から仲良くさせてもらっているのですが、特にこの5〜6年はちょっと違うオーラになってる気がします。環境や地球のことを考えていてすごく意識が高い、もう尊敬しかないです。たまえ=のんちゃんと同じぐらい、イズコ=柴咲コウという選択肢しかなかった。だから直接僕が彼女に「こういう映画をやるんだけど、やって欲しいんだ。コウちゃんしかおれへんねん」ってメールを送ったら、髙橋ツトムが描いたイズコの絵を見つけたらしく、それを添付して「私やん」って返信してくれた。それで出演が決まったんです。本当にありがたかったですね。
やっぱり柴咲コウじゃないと今回のイズコは難しいんですよ。『スカイハイ [劇場版]』(04)のときはダークな世界観で好き放題やれた部分がありましたが、今回は基本的なルックがリアルな世界観なので、その話の中にイズコという異物感をどうやって成立させるのか、そこが非常に難しかった。それでも柴咲コウはさすがのオーラで完璧にやってくれました。彼女が受けてくれてすごく幸運でした。現場でも超プロフェッショナルなので、彼女のことは皆大好きでしたね。