ジャンルという色眼鏡
Q:今まで手掛けられた作品は比較的「アクションやホラー」としてのジャンルが多かったと思います。今回は普段と違うチャレンジになったかと思いますが、その辺はいかがでしたか?
北村:僕はあまり気にしなかったのですが、むしろこの映画を僕に作らせてくれたプロデューサーやスタッフ、キャストの方がチャレンジだったと思います。これまで観てきた映画は、アクションやホラーや怪獣映画だけではないし、他のジャンルでも大好きな映画はたくさんある。例えば『マッドマックス』(79)を撮ったジョージ・ミラー監督が『ロレンツォのオイル/命の詩』(92)を撮ったりするわけですよね。ストーリーテラーという観点で言うとジャンルにあまり関係はないと思っているのですが、どうしても僕はアクションやホラーや怪獣を撮る人と思われがち。でもそうやって世間から色眼鏡で見られているにもかかわらず、原作の髙橋さんや脚本の嶋田うれ葉さん、プロデューサーの真木太郎さんと和田大輔さんなど、彼らが「やろう!」と言ってくれたことはすごく嬉しかったですね。彼らが僕のことを同じ色眼鏡で見てしまうと、そもそもこのプロジェクトはスタートしなかった。
先ほど震災当日は日本にいたと言いましたが、そのときの仕事では嶋田さんと一緒だったんです。その仕事は残念ながら実現には至りませんでしたが、当時から彼女はすごく優秀でした。まだまだ無名でしたが、僕の「こいつ間違いないセンサー」に引っかかったんです(笑)。僕は才能を見抜く目にはわりと自信を持っていて、当時は大反対されたけど無名の上戸彩ちゃんを『あずみ』(03)で大抜擢したのもそうだし、ブラッドリー・クーパーを最初に主演起用したのも僕だった。実際に嶋田さんは、その後朝ドラの「エール」(20)を書くまでの脚本家になる。そろそろまた一緒に仕事をやるときではないかと、この原作を読んでもらったところ「今こそやるべき」と言ってくれたんです。
震災の時にたまたま日本にいて、髙橋さんの家に寄せてもらい、そのとき一緒に仕事をしていたのが嶋田さん。僕にとっては兄貴のような存在であり妹のような存在の二人です。原作は三姉妹ですがこちらも三兄妹。二人の兄と一人の妹から始まったんです。何だか不思議な縁でしたね。NHKの朝ドラを書いている脚本家がやると言ってくれるのは、製作に追い風になるんですよ。髙橋ツトムと僕だけだと凶暴な映画になるんじゃないかと、また色眼鏡で思われてしまう(笑)。
『天間荘の三姉妹』©2022髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
髙橋さんは完成した本作を観て「素晴らしい!」と言ってくれました。彼は兄弟分だからと言って全然甘くなくて、むしろ百倍厳しい。嶋田さんと脚本をつめているときも、中途半端な内容で髙橋さんに読ませると映画化の話自体が白紙になりかねない。それくらい厳しい人なんです。原作は自分がゼロから生み出した子供だから当然ですよね。それほど厳しい髙橋さんが「素晴らしい!何があったんだよ!どうしたんだよ!」って言ってくれて(笑)。嬉しかったですけどね。でも俺を誰だと思ってんだよ、あなたの兄弟分だぞって、思いましたね(笑)。
映画作りって一瞬で人間関係が崩壊するぐらい「魔物」なんです。お金も掛かるしエゴもある。突き詰めてやろうとすればするほど、あっという間に人間関係すら壊れてしまうのが“もの作り”というもの。以前、長渕剛さんとお仕事した時は、お互いにとことん突き詰めて妥協できない性格なのでクリエイティブで衝突して大喧嘩になった(笑)。僕は『ゴジラ FINAL WARS』を撮りましたが、剛さんもゴジラを相手にするようなもの。大変でした(笑)。幸いにして人間関係は壊れませんでしたが、5年くらいは仲違いしました。でも兄弟分なので、僕がまた「すみません、あの時は突っ張るしかなくて!」って連絡したら「おかえり!」って言ってくれて、今はまた仲がいいんです。兄弟と呼ぶくらい家族ぐるみの付き合いをしてる人ほど、下手を打つと全てが台無しになる。そういう意味では逆風なんです。自分のクリエイティブで髙橋ツトムの原作に挑むということはすごくチャレンジでしたね。