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『天間荘の三姉妹』北村龍平監督 今の自分にしか撮れないものを【Director’s Interview Vol.252】

『天間荘の三姉妹』北村龍平監督 今の自分にしか撮れないものを【Director’s Interview Vol.252】

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みんなとセッションして作る



Q:映画はすごく良かったです。失礼な言い方ですみませんが、これを北村監督に撮らせたのがすごいなと。北村監督が手がけるアクション映画が好きでいろいろ拝見してきましたが、北村龍平のカラーを出しつつもこの原作をしっかり成立させているのは驚きました。


北村:そう言っていただけると本当に嬉しいですね。僕は15年前にハリウッドに行って『ミッドナイト・ミート・トレイン』という映画を作ったのですが、原作はホラーの巨匠クライヴ・バーカーが書いた「真夜中の人肉列車」。その名の通り恐ろしい映画です。映画の後半で主演のブラッドリー・クーパーがものすごく酷い目にあうシーンがあって、呆然としているブラッドリーにカメラが寄っていくショットを撮っていると、後ろからプロデューサーが言うんです。「これこそが北村龍平モーメントだ。お前が本当に得意なのは、こういうエモーションを描くことだ」と。そのプロデューサーはトム・ローゼンバーグといって、『ミリオンダラー・ベイビー』(04)でアカデミー賞を獲っている人なんです。そのときは本当に涙が出そうになりましたね。それまでアクションしか撮れない監督だとか、ドラマはできないとか、そんなことばかり言われていて、アクションシーンをド派手にやればやるほど、そういう風にレッテルを貼られていく。どんな映画を撮ってもエモーションは絶対大事にしていたので、そのときはすごく嬉しかったです。


Q:冒頭からカメラが果敢に動き回り、カメラワークがすごいです。スタッフやジャンルが変わってもそこは健在で嬉しかったのですが、撮影へのこだわりがあれば教えてください。

 

北村:僕がこういうドラマものを撮るからといって、急に普通の画作りをしても全然僕らしくない。僕の今までの経験も反映したかった。冒頭は波乱万丈なドラマが今から始まるという、まさにジェットコースターが上がっていくところ。そのドキドキ感を与えつつ、天間荘の世界に最初の3分間で連れて行かないとダメだと思ったので、わりと早い段階からワンカットでやりたいと思っていました。ワンカット自体はいろいろな映画でやっていますが、この映画のファーストカットのように鏡から出てくるのはちょっと新しいかなと。似たようなことをしていても、常に新しいことをしたいというのはあるので、そこはこだわりましたね。



『天間荘の三姉妹』©2022髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会 


今回は、編集の北島翔平さん、効果音の柴崎憲治さん、録音技師の久連石由文さん、その3名以外は、ほぼ全員のスタッフが初めてご一緒する方でした。ハリウッドでやっていると毎回いろんな国に行って、いろんなクルーとやるのが普通。それに慣れていることもあり、初めましての出会いからどんなマジックが生まれるのかがすごく楽しい。撮影の柳島さんとも最初は初めましてから。これまで自分がやって来たこともコピーしたくないし、柳島さんがやって来たこともやりたくない、この二人で今だから出来ることをやりたいと最初にお伝えしました。王道の「ザ・日本映画」みたいな画にしたい。YouTubeではなく、ドーンとスクリーンでみせるものにしたいんだと。そこは感覚が合いましたね。


柳島さんって想像以上にカメラを動かす方で驚きました。柳島さんがよく撮影を担当されている北野映画などを観ていると、そんなに動くイメージはなかったのですが、実はカメラを動かすのがメチャメチャ好きな方。柳島さんが出した撮影のアイデアにインスパイアされて、色んなことをやれたのが楽しかったですね。今回のタイトルカットに関しても、最初は僕にしては珍しくレールもクレーンも無しのFIXでいこうと思って、柳島さんにもそう伝えていたんです。それでも撮影前に後ろをみたらレールを敷いてクレーンを組んで大騒ぎしている。「クレーンいらないって言ってるのに(笑)、、でも、入れるんならこうしよう!」って全部その場で思いついて撮りました。


美術の三ツ松けいこさんも「(普段の仕事ではあまり無いですが)私は血みどろも大好きなので次はそれでお願いします!」って(笑)。「え、実はそういうの好きなんだ?」みたいな感じで盛り上がりましたね。いろんなジャンルのミュージシャンとセッションしている感じもあり、スタッフや役者さんからのアイデアが成功に直結したと思います。脚本という設計図はあるけれど、自分(監督)のやりたいイメージやビジョンに縛られてはいないので、そこはどんどんセッションして作っていこうよと皆に言っておいた。それをやりやすく感じてくれたんだと思います。


日本では、自分が納得してないのに監督がこう言ってるからと、言われたままやってしまう役者さんもたくさんいる。ハリウッドだと意見を出さないと存在価値がないぐらいの扱いをされるのに、日本で意見を言えば言うほど怖いとかやりにくい人だと思われてしまう。意見を言わずに卒なくこなす方が良いみたいな風潮ってありますよね。僕はそれが非常におかしいと思っていて、意見を言おうがそこで議論しようが失礼なことさえなければ、それは嫌なことでは決してない。


影でコソコソされるのもすごく嫌なので、今回はそういうのが無い現場にしたかったんです。今から何ヶ月も何億円もかけて一緒にものを作るわけで、成功しても失敗してもそれは一生ついてまわるものになる。だから最初に、役者さんたちとは1対1で話す時間を作ってもらいました。そうしたら結構びっくりされたんです「そんなこと言われたことがない」って。今までの日本の映画やドラマの現場だと常に時間がない中でとにかく撮影を消化すること優先のようになってしまうことが多く、事前にガッツリ話し合うことはなかなか難しかったのですが、今回は最初に皆と話ができたのはすごく良かったですね。そこで話すのは、映画の内容というよりも、今まで人としてどうやって生きて来たかみたいなこと。それでいいんです。





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