脚本のない撮影
Q:本作のストーリーはカーワイ監督のオリジナルですか?
カーワイ:そうです。でも脚本はありませんでした。沖縄から北海道までのロードムービーで、映画監督がミニシアターを回りながら自分の映画を売りに歩くというコンセプトしかなくて、中身は撮影しながら考えました。
Q:冒頭で沖縄の怪しい「社長」に脚本を書かされるという展開がありますが、そこまでは普通の劇映画のようで、その後からロードムービーになり、ドキュメンタリータッチに転調していきます。セリフはかなりアドリブが多そうですね。
カーワイ:もう全部アドリブです。その場で僕が思いついたことをムチャぶりでお願いして、会話をしてもらいました。バルカン半島で映画を撮った時に、このスタイルを始めました。その時の撮影スタッフはカメラマンと音声マンだけで、現地で人をスカウトして即興で演じてもらっていたんです。その手法がすごく楽しくて、しかも結構うまくいきました。
今回もその時と同じスタイルで全く準備をせず、その場の思いつきで「こういう会話をしてほしい」と出演者にお願いしています。そして実際に一度演じてもらうんですが、やってみると色々な問題点が分かるのでリハーサルを重ねて修正していくんです。要らない言葉を省いたり、アドリブが面白いところはもうちょっと長く話してもらおうとか。脚本は書いていないですが、現場でずっと脚本を書きながら演出していた感覚ですね。
『あなたの微笑み』(C)cinemadrifters
Q:アドリブと言ってもリハーサルやテストはしていたんですね。
カーワイ:特に沖縄のシーンはそうです。やはり役者さんにとってはその方がやりやすい。逆にミニシアターの館長さんたちが出演するシーンは全部ワンテイクでした。映画に出演したことがない人にとっては、何回もリハーサルをして同じ演技をやることはすごく大変です。そういう意味で冒頭の沖縄の部分だけはすごくドラマっぽく見えて、その後の部分はドキュメンタリー的に見えるかもしれません。
Q:監督はムチャぶりが多かったとのことですが(笑)、渡辺さんはカーワイ監督からのリクエストで一番苦労されたパートはどこですか?
渡辺:それはもう、ミュージカルシーンですね(笑)。リム・カーワイ監督が即興で撮っていくという話は聞いていて、その演出には自分なりに何とか対応していると思っていたんです。でも豊岡での撮影の前日に「明日、渡辺は豊岡でライアン・ゴズリングになります」というメッセージがLINEできて、「これはどういうことなんだろう」と(笑)。
Q:『ラ・ラ・ランド』(16)ってことですね(笑)。
渡辺:はい(笑)。僕の相手役の平山ひかるさんは本職がダンサーなので、ミュージカルシーンを撮ることになった。もちろん平山さんは即興で踊れますが、僕は踊ったことがないので、「できるのか…」なみたいな(笑)。翌日、そのミュージカルシーンを午前中に練習して、すぐに撮り始めました。
カーワイ:でも格好良かったですよ(笑)。渡辺さんはチャップリンにもなれるし、ライアン・ゴズリングにもなれる!
渡辺:あそこが一番精神的に追い詰められたシーンです(笑)。でもリムさんには、「渡辺のダンスはあまり上手くなくていい」という、演出的な狙いがあったと思います。僕はリム・カーワイ監督の手の上で踊らされていたんだと思いました。