映画の希望を描いたラスト
Q:最後の北海道のシーンはすごく象徴的だと思います。映画やミニシアターに対する愛を感じますが、一方で映画館が滅んでいくことへの諦めとも思えました。
渡辺:あのラストは観る人によって解釈が変わるだろうと思います。絶望的なラストに見える人もいると思いますし、実際に「あのラストはもう少しどうにかならなかったのか」という意見の人もいました。実は当初、カーワイ監督からは「主人公が北海道で死んでしまう」という案も聞いていたんです。それを聞いた自分からすると、映画にしがみつく主人公の姿には希望を感じます。僕はいいラストシーンだと思っています。
カーワイ:おっしゃる通り「諦め」という感覚も確かにあるんですね。でも僕は、やっぱり映画と映画監督の未来をこの作品で提示したいと思ったんです。映画館はビジネスとして成り立たないようになると思います、映画監督たちも映画を撮り続けられるかどうかわかりません。でも多分、その時代なりに道を見つけて歩んで行くのではないかということを、ラストで見せたいと思いました。ただ、ラストシーンよりは最後のエンドロールの部分の方が大事だと思っているんです。(※エンドロールでは出演した各地のミニシアターの関係者のインタビューが挿入される)
映画を上映する、あるいは映画を作るということは、色々な思い入れがあって、前向きな人もいるし後ろ向きな人もいる。そういう現状をドキュメンタリーとして、映画館の関係者に本音で話してもらう。それを見せていくと、何か希望を感じてもらえることはあるのではないかと思ったんです。
『あなたの微笑み』(C)cinemadrifters
Q:残念なことに、本作に登場した劇場の中には閉館してしまった場所もあるんですね。
カーワイ:撮っていた時は、そうなるとは本当に思いませんでした。だから予想よりも早く、映画にとっての悲しい未来が来る可能性もありますから、それはちょっと怖いですね。
Q:最後に『あなたの微笑み』の見どころをお願いします。
カーワイ:「自主映画監督」と「ミニシアター」という言葉はたぶん一般的には全然通用しないし、業界の小さな話に見えてしまう可能性もあります。でも実際はそういう映画ではありません。映画は斜陽産業だと思いますが、映画と同じような構造を持つ産業は他にもいっぱいある。例えばレストランがそうです。コロナ禍でお客が来なくなり店を閉めなければいけない人が大勢いる。そういったレストランの経営者や料理人も、自分で食材を調達して料理してお客に食べてもらうという意味において、「自主映画監督」だと思います。
だからこの映画は、今取り残されかかった産業に関わる人たちにも見てほしい映画です。そして同じように一生懸命頑張って生きている人がいることに気づいて、希望を感じてもらって、暗い世の中を潜り抜けて生きていってくれたらと思います。
『あなたの微笑み』を今すぐ予約する↓
向かって左:主演の渡辺紘文氏、向かって右:リム・カーワイ監督
監督:リム・カーワイ(林家威)
1973年7月28日生まれ、マレーシア出身。大阪大学基礎工学部電気工学科卒業後、通信業界を経て北京電影学院監督コース卒業。卒業後、北京にて『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』(10)を自主制作し、長編デビュー。監督作品に『マジック&ロス』(10)、『新世界の夜明け』(11)、『Fly Me To Minami恋するミナミ』(13)、中国全土で一般公開された商業映画『愛在深秋』(16) 、バルカン半島で自主制作した『どこでもない、ここしかない』(18)、『いつか、どこかで』(19)など。大阪三部作の3作目となる『COME & GO カム・アンド・ゴー』(20)は、東京国際映画祭でも上映され、21年に全国公開され大きな話題になった。22年夏には、バルカン半島3部作の完結編の撮影を行った。香港、大阪、中国、バルカン半島などで映画を製作、国籍や国境にとらわれない創作活動を続け、東京、大阪、台湾、ニューヨークのアート系劇場で特集を組まれるなど、その活動は国内外から注目されている。「2021香港インディペンデント映画祭」主催者、「香港映画祭2021」キュレーターなど、映画監督以外でも活動の場を広げている。
渡辺紘文
1982年栃木県大田原市生まれ。映画監督・脚本家・映画プロデューサー・俳優。日本映画学校卒業。学生時代は今村昌平監督の長男・天願大介監督に師事する。2013年、実弟の映画音楽家・渡辺雄司とともに映画制作集団「大田原愚豚舎」を旗揚げする。栃木県大田原市を拠点に独自の映画創作活動を展開し、精力的に作品を製作・発表・上映し続けている。長編映画『そして泥船はゆく』(13)、『七日』(15)、『プールサイドマン』(16)、『地球はお祭り騒ぎ』(17)、『叫び声』(19)で、5作連続で東京国際映画祭への正式出品される快挙を成し遂げた。ロックバンド・トリプルファイヤーとコラボレーションした『普通は走り出す』(18)がMOOSIC LAB 2018審査員特別賞を受賞、わたしは元気』(20)はウディネ・ファーイースト映画祭出品され、精力的な活動を展開している。2019年、2020年には国内で『異能・渡辺紘文監督特集 大田原愚豚舎の世界』特集上映が開催された。海外においては、2020年にヨーロッパ最大のアジア映画祭・第22回ウーディネ極東映画祭にて海外初となる特集上映が開催され、「近年の日本映画における最大の発見」と絶賛された。アメリカのスミソニアン博物館において「Get To Know Hirobumi Watanabe」と題された大田原愚豚舎作品の特集上映が開催されるなど、国内外で注目を集めている。また俳優としても活動の場を広げ、近年の出演作に『眠る虫』(19/金子由里奈監督)、『街の上で』(19/今泉力哉監督)、『アンダードッグ』(20/武正晴監督)、『全裸監督 シーズン2』(21/武正晴総監督)などがある。
取材・文:稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)
『あなたの微笑み』
2022年11月12日(土)よりイメージフォーラム、12月3日(土)よりシネ・ヌーヴォ他全国順次公開
配給:Cinema Drifters
(C)cinemadrifters
映画『あなたの微笑み』シアター・イメージフォーラム
劇場トークイベントスケジュール
11/12(土)11:30回上映後 登壇:渡辺紘文、平山ひかる、尚玄、田中泰延、リム・カーワイ監督
11/12(土)21:00回上映後 登壇:田中泰延、リム・カーワイ監督
11/13(日)11:30回上映後 登壇:深田晃司監督、リム・カーワイ監督
11/15(火)11:30回上映後 登壇:石川慶監督、リム・カーワイ監督
11/16(水)11:30回上映後 登壇:平山ユージ(プロ・フリークライマー)、平山ひかる
11/16(水)21:00回上映後 登壇:松浦祐也、リム・カーワイ監督
11/18(金)21:00回上映後 登壇:中原昌也、リム・カーワイ監督
※11/19(土)以降の上映スケジュール、トークイベントスケジュールは劇場HP、映画公式SNS、HPにてご確認ください。
※ゲスト、イベント内容は予告なく変更となる場合がございます。
※敬称略