映画から見るシェフと料理
奥浜:『ザ・メニュー』の中で印象的だった料理は何かありますか。
飯島:実際に食べたいのはチーズバーガーですが、冒頭の牡蠣も美味しそうでしたね。牡蠣を食べる時にビネガーとエシャロットのミニョネットソースに加えて、レモンキャビアも使っていました。レモンキャビアというのはキャビアのような丸い粒が入っているレモンの品種です。
『ザ・メニュー』©2022 20th Century Studios. All rights reserved.
奥浜:美味しそうでしたね。後半になると料理以外の情報も非常に多かったです。
飯島:器に石や貝殻を使っていたりしましたね。パンのないパンというメニューも驚きました。あとは日本の食材である梅干しや昆布、あおさが登場していました。実はフランス料理でも日本の食材が結構使われてるんですよね。今年の8月に3年ぶりにフランスにいって三ツ星のフレンチに行ったのですが、最初の1皿が紫蘇をカリカリに揚げた天ぷらに、キャビアとレモンキャビア、ソースとハーブがかかっていました。あとはメインのお肉が桜の塩漬けで味付けされていました。
奥浜:世界で日本の食材が使われているのは嬉しいですね。
飯島:和食でも、フレンチマスタードを使った酢味噌を出しているお店もありますし、フレンチと和食は近づいているのかもしれないですね。二ツ星のレストランのランチに行ったときに、海苔がホタテのタルタルに乗っていたのですが、日本でよく売られている瓶に入った海苔の佃煮だったんです。日本人的にはあれ?ってなりましたが(笑)、作品の中で使われていた梅干しもどんな梅干しだったのか気になりますね。
奥浜:あの料理は味も気になりますね、ホエイが入ってたり。
飯島:梅やホエイの酸味が入っていて、複雑な味になっているんじゃないでしょうか。複雑な感情と共に…(笑)。
『ザ・メニュー』©2022 20th Century Studios. All rights reserved.
奥浜:シェフからお客さんに対して「きっとこういうのがお好きなんでしょ?」というシーンでしたね。
飯島:何度も通っているのに、過去食べた料理を一つも覚えてない老夫婦も印象的でしたね。作る人には悲しいですね。料理に興味がない人にとっては仕方ないとは思いますが…。お金が沢山あると、ステイタスの高いそういったレストランに行きたくなる気持ちもわかりますけどね。
奥浜:現実の世界でも、有名なシェフはスターのように扱われてきていますよね。
飯島:元々は純粋に料理が好きであったり、喜んでもらいたいという気持ちがキッカケでシェフになられたのだと思うのですが、シェフのストイックさ、カリスマ性に惹かれてゲストとの主従関係が逆転したり、スタッフから崇拝されたりするのでしょうね。
『ザ・メニュー』©2022 20th Century Studios. All rights reserved.
奥浜:ドキュメンタリー番組の「シェフのテーブル」などで知名度が上がり、そのシェフのお店に行ったことをステータスにしたい富裕層の方が来店されているようですね。
飯島:シェフも人間なので感情がありますよね。一皿に込められた思いを想像して、ちゃんと味わって欲しいですね。
奥浜:「“食べる”のではなく“味わう”」、というのは「ザ・メニュー」の中でも印象的なセリフでした。また本作では、三ツ星シェフのドミニク・クレン氏が脚本を踏まえてメニューを考えたということですが、飯島さんも監督などと相談しながらメニューを決められるのですか。
飯島:そうですね。決められているメニューもあります。決められていないときは、季節やその家庭の環境、といった設定があるので、メニューだけでなく食器等も含めて監督に提案して決めています。
奥浜:『川っぺりムコリッタ』では主人公は質素な生活をしていて、ご飯とお漬物、おにぎりが描かれていました。
飯島:おにぎりは本当によく出ますね。あと餃子ですね。子どもの頃に家族で包んだ経験のある人が多いので、共感されやすいんです。『そして父になる』の時も、餃子をいっぱい包んで焼いたのですが、その家庭の雰囲気に合わせて、副菜にパート先のお弁当屋さんのポテトサラダを買って、パックに入ったままの形で出したりしました。でも撮影のアングルが低くてあんまり見えなかったんですけど(笑)。
奥浜:そういうときは、監督に「写ってないです!」と伝えたりするのですか。
飯島:それはないです(笑)!写ってなくても全然いいんです。料理を写すためのアングルは自然じゃない場合もあるので。そこに何かが存在すればいい。