© 2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.
『いつかの君にもわかること』ウベルト・パゾリーニ監督 愛とは耳を傾けること【Director’s Interview Vol.282】
観客のための余地を作る
Q:物語や演出も非常にクラシカルでシンプルな印象ですが、映画を観ている側に蓄積されてくるものはとても大きい。「メロドラマや感情主義と距離を置いた」と聞きましたが、その理由を教えてください。
パゾリーニ:記事に書かれていた内容がドラマチックだったので、これを映画として届けるには、観客のための余地をきちんと作る必要があると思いました。それはつまり感傷的なメロドラマにはしないということ。登場人物たちが泣き腫らしたり、成長した息子が父の墓に行くようなシーンがあると、あまりに極端で深刻な状況が続くことになり、観客がそこに入り込む余地を失ってしまう。普遍的な生活の積み重ねを一つの風景画のように見せることが出来れば、観客は共感してストーリーに入っていける。映画の中の人物も自分たちと変わらない、この状況は特別ではなく自分の家族にも同じことが起りうる。そう感じて欲しかったのです。
そのために、脚本もシンプルにしてドラマ感を抑え、過剰な感情は出さず物静かに演じてもらいました。存在を感じさせないカメラワークを心がけ、音楽も最小限。そうすることにより、歩いているときにすれ違うような普通の人として、映画の中の人物を見てもらえるんです。
『いつかの君にもわかること』© 2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.
Q:ロウソクや風船など、小道具の使い方も非常に効果的です。それらは脚本の時点で想定されていたものなのでしょうか。
パゾリーニ:はい。全て脚本の時点で書かれていたものです。私は想像力がないので、現場で自然発生的に作り上げることが苦手。撮影前にしっかりとイメージしておいて、それを持って臨みたい。例えば、遺品を入れるメモリーボックスのシーンなどは、養子縁組をリサーチした際に知ったことを脚本に取り入れています。もともと、セリフは少ない方が好きなのですが、特に今回の映画では小道具など活用して感情や状況を伝えるようにしました。
リサーチの段階でお会いした方々からは色んなインスピレーションをいただき、それを映画の中に活用しています。マイケルと同じような経験をした方ともお会いして、どのようにトラウマを乗り越えたのか、そういった話も聞くことが出来た。とても良い経験でした。