練習を重ねて練り上げた3人の声
Q:演奏以外のシーンでも、ドラマの間を大切にされていると感じました。芝居の間の作り方はどのように意識されましたか?
立川:十代の若者3人の掛け合いがメインになるので、セリフの間はちょっと詰め気味にしています。ゆったりとした間にすると若者らしさが失われるので、生き生きした会話のテンポ感を意識しました。その分、音楽や動作の間、シーンとシーンの間はちょっと多めに尺を取っています。また、メインの3人のドラマが大きく動く重要なシーンの後は、静かなシーンを繋ぐようにしました。大がサックスを掃除しているシーンは、かなりゆったりとした間になっています。
Q:山田裕貴さん、間宮祥太朗さん、岡山天音さんという3人の声が、キャラクターと本当にフィットしていました。録音の際の役作りはどんなアプローチだったのでしょうか。
立川:セリフの録音はいつも1日か2日で終わらせるのですが、今回は計5日間くらいかけました。まず3人に集まってもらい1シーンを2〜3時間かけて録音します。そこで色々とレクチャーし、その後一度持ち帰って練習してもらいました。後日もう一度集まって録音し、そこで修正ポイントが出たらまた次の日に録り直す。それを繰り返した感じです。皆さん作品に対しての情熱がすごくて、自ら「ここを録り直したい」と言ってくれたりしました。
かなり贅沢なスケジュールだったので、3人がどんどん上達していくのがわかりました。最初にテストで録った素材を、練習した後にもう一度聞いてもらったら「これは聞いていられない」というくらいに差がありました(笑)。
『BLUE GIANT』©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館
Q:ピアノの上原ひろみさんをはじめ演奏者の皆さんは、キャラクターに合わせて演奏のテイストを調整したそうですね。具体的にどんな工夫をされたのでしょうか?
立川:一番わかりやすいのはドラムです。玉田はドラムに触ったことがない素人としてスタートする設定なので、ライブでかなり失敗をします。ただドラム奏者の石若駿さんはめちゃくちゃ上手な人なので「もっと下手に演奏してください」というリクエストにかなり苦労されたと思います。アニメーターでもよくあるのですが、絵の上手い人に「下手くそに描いてくれ」と頼んでもなかなか描けない。どうしても上手くなってしまうんです。それと同じで、玉田が失敗する音を出すためにプロなら絶対叩かないタイミングで叩いたりして、石若さんとしてはかなり下手な演奏をしていると思うのですが、その音源を我々が聴くと「上手い!」となってしまうんです。
Q:上原ひろみさんからサックスの馬場智章さんに「大だったら、もっとこういう音なんじゃないか」と提案もされていたそうですね。
立川:それもありました。馬場さんのサックスの音色は大人っぽくて艶があるのですが、大はかなり直線的で荒々しい吹き方。だからフレーズが滑らかでテクニカルなものより、直線的で同じ音を繰り返す方が大っぽいよね、とか。あとピアノの雪祈は途中で壁にぶち当たる設定なので、その前に彼の演奏が花開いている感じだと後半で壁を乗り越える姿が描けない。そこで上原さんには「ちょっと調子こいている奴が小手先でカッコつけている演奏」をお願いしました。私が音楽に詳しければもっと具体的に伝えられたのですが、かなり抽象的だったので、上原さんも大変だったと思います。